自前の徳利から御猪口に酒を注ぐ。

　透明に揺れる液体に月を映してしばし眺めると、やがてくいっと仰ぎ、喉を通す。
　熱い。辛口の清酒はひりりと蜥蜴の喉を刺激する。

　傍。巨大な水瓶に入った人魚が問うた。

　徳利を軽く掲げてみせるが、プレソはそのままそっぽを向いてしまう。

　やや残念。そんな面持ちのままトカゲは視線を移すと、夜の海のすぐそばで飛び交う火花の光を見た。

　赤色、青色、黄色……様々な彩を見せる火の遊具。
　飛び散る光は、夜闇に咲き、揺れる海の水面に反射し。やがて消えればまた新たな火を灯す。


　なんとなく海に集まった竹林のメンバーでの花火。
　どこぞで仕入れてきた花火に興じる仲間の姿を、ゼゼは遠巻きに眺めていた。

　子供のようにはしゃぐ事はできない、という考えも確かにあった。
　だが同時に。夜は静かに過ごすもの。そういう何気ないルールがゼゼにはある。


　もとより蜥蜴は変温動物。その体温は外気温によって大きく左右される。
　夏場の夜は昼に及ばぬにしろ、肌には暑い。動く分には問題はないが、それでも気温が下がる時間帯は大人しくしていたいというのがゼゼの本音だった。

　内心そう思いつつ、また一口酒を煽る。
　

　楽しげに植物観察を始めるトカゲであった。

恵まれてるのかもねぇ　と親身になるでも嫌味を言うでもなくただありのままに。

ゼゼがいついつ来るかなどの予定を手帳にしたためると笑顔でそう促す。

なお、これ以降のメッセは湯屋コミュに移行しても別々に続けてもどちらでも構わない。

にや、と笑ったような気配がしたが、覆面の下、誰にも見えない。

かと思うと驚くほど静かな声音で、彼は低く肯定した。

他人事のように告げると、だが、とゼゼを四つの瞳が見つめる。

お互い様だと相手がおそらく反応に困るであろう言葉を投げるとそのまま相手の様子も関せず——自らの思案に移ったようだ。

なんだかぶつぶつと呟いている。

こめかみの辺りからくるくる指を回して示した。

（種子を渡し、幾らか離れた場所にある茂み辺りを示し）

羽の生えたトカゲもしばし考える。

農業仲間だ！と親しみを感じだしたのかしっぽをうねらせて喜んでいる。