■The crossing of a soliloquy and hope ...


結局臨時組のリマとナユ、合流したシラズも含めて。
各自の用事諸所が済むまでと、もう一箇所攻城戦の共闘を決めたままでの年越しは、随分と賑やかなものになりそうだった。

その状況では、なかなかシェリィが１人で居るということもなく。
結果、何故かレシュは少々強引にシェリィを野営地から離れた場所へと連れ出すと、ご丁寧に簡易結界まで展開するという状況に、シェリィの方は困惑を隠せなかった。


「……こんな事までして私１人に一体何の用件があるんだ？　この前言ってた許可が欲しい案件云々は、結界まで張るよーな話なのかい？」

「そうではありません」


相変わらず表情は読み難いながら、以前よりは注意してみれば多少の感情の機微程度は見えるようになったレシュのそこには、何処か緊張のようなそれが浮かんでいる。
ますます心当たりの無さに首をかしげているシェリィに向かって、レシュはこう告げた。


「ここからは、私の独り言です。いいですか、独り言ですので」

「……独り言ってのは誰も居ない場所で言うモンじゃないのか。私の語彙力の無さを嘆かわしいだとか何とか日頃言ってるレシュにしちゃ、なんか矛盾してないかい？」


シェリィの突っ込みに対しても表情を変えぬまま。
レシュはやはり淡々とした、しかし少し緊張の滲む声で“独り言”を始めた。


「シェリィ殿が一番懸念されているであろう“時間切れ”……すなわち、シェリィ殿と並ぶ異端児とされる存在のそれ。事故的なケースですが現在の派遣先では健在であり、かの地で近く天命を終え２度と会う事が叶わないという事態は、少なくともシェリィ殿がこの地での任務に今後１０年以上費やすというような事がなければ、まずありません」

「……！！　ちょっと待て。それは前、聞いてもそれ以上語れないって上の連中から口止めされてたはずの……」

「もう１度申し上げますが、これは独り言です。よって私は何らかの規約違反をしているわけではありませんし、アーク殿のたっての頼みだからというわけでもありませんし、シェリィ殿の集中力不足によるここ暫くの戦闘の危うさを心配しているわけでもありません」

「……レシュ、お前……だが、アイツと最後に会った折から過ぎた時間じゃ、その話には矛盾が……」

「シェリィ殿がこの地での任務を終えて、故郷へ帰還された折には、長殿が直々に話をされると伺っておりますが。今はかの存在の“運命の輪を断ち切った”者が居た、とだけ。それによって本来の寿命が延びたのだそうです」

「……そっか。じゃぁ……大丈夫、なんだな。ホントに……」

「もう１度申し上げますが、これは独り言……っ！？」


大きな手が金の髪の頭を乱暴に撫でる仕草に、レシュの左右色違いの大きな瞳に困惑が滲む。
そして、そうしながら目前の存在は——。


「……シェリィ殿」

「独り言なんだろ？　……じゃ、これも見なかった事にしておいてくれ。あと私のこれも独り言だからな。……有難う、レシュ。あとアークもな」

「……」


レシュは簡易結界を解除しつつ、どこかすっとした心持になっている自分を不思議に思っていた。


“……私にはよく判らないですが……こうやってこの強いはずの人が嬉しそうに見えるのに、涙を零している様を、少し羨ましいように感じるのは……何故、でしょうか。そして、思考の末に決めた私のこの判断は、間違っていないような気がするのです……”


+++++　+++++


皆がそれぞれの寝床で寝静まっている夜。
２人きりになった折に、シェリィは近くで結界の様子を見ながら浮遊しているアークに声をかけた。


「なぁ、アーク」

「うむ？」

「ここんトコさ、私は……やっぱ誰かと組んで戦うのが駄目なんじゃないか、力を取り戻したいってのに逆効果なんじゃないか……そんな風に迷ってたんだよね」

「……」


己のマスターの近くまで浮遊しつつ戻ってきたアークは、静かにその言葉に耳を傾ける。


「だけどさ。この前みたいに、絶対１人じゃ勝てないって戦闘を通じて、なんかちょっとだけ、分かったような気がする。私に足りなかったものが」

「……」

「元々共闘に慣れてないってのは確かなんだ。本来の能力発揮出来るなら、周囲巻き添えにしないように戦う方が難しい。けど、“今の私”だからこそ、出来る戦い方がある。誰かと長期的に組まない方がいいって考え方は変わらないが……臨時組してくれる連中の事を、もっと頼っても、不得手な分野なら助けて貰っても。それは“自分が弱い所為”だからじゃぁないんじゃないか、って。何でも１人で片付けようとするのが、焦りを生んで結果、逆効果だったんじゃないか、ってね」

「……マスター……」


シェリィは腰掛代わりにしていた切り株から地面に座り込むと、そのまま長い髪の毛に土がつくのも構わずに、大地に仰向けに転がって夜空を見上げる。


「こんなのさぁ。今までの私だったら絶対考えなかっただろ？　同族連中は苦手だし、連中も私の事を基本苦手だと思ってる、下手すりゃ嫌われてて、信頼関係なんて程遠い場所にある。でも……リマも、ナユも、シラズも。知り合って日も浅い私を信頼して連携組んでくれて。僅差だろうが……全員で掴んだ勝ちは、自分が満身創痍だろうが何だろうが、気持ちいいモンだったから」


冬の澄んだ空気の中で、夜空に一際きらきらと輝く星や月を眺めながら。


「そう思えば、今も悪くもない。１人で戦える強いだけの私じゃ、見えなかったものが見える。今のこの綺麗な夜空にきらきらしてる星みたいなモンかな。ここ暫く組んでたリマやナユやシラズや……今まで何度か肩並べて戦ったソロ仲間のセルシアとか、メイって鳥と一緒に居るペンダント直してくれた子とか、気弱そうで自信もなさげだけどホントは出来るギや、好奇心旺盛で個性的なカルとかも。それからこれから臨時で組むだろう奴らも、きっと全部こうやってキラキラ光るよーにして、私の中に想い出が残るんだ。時にそれが痛みを伴うものだとしても。だから私は……今ならアイツに言ってやれるよ。“忘れないでいる方が幸せに決まってる”ってね」


その言葉を聞いて、アークの口からため息が零れ落ちた。
なんともいえない感情の入り混じったそれが。


「……確かに、その解に辿りついたなれば。我は最初は反対したが、結果この地へ滞在を決めた判断は間違いではなかったな。そして……伝えられると、知ったのだな」

「“独り言”らしーから、今のは聴かなかった事にしといてやってくれよ。だが、有難う、アーク。この答えが私が“探してたもの”なのかどーかは分からないけど、少なくとも前なら答えられなかったモンが見えただけでも上々だ。アイツの言う通りやっぱり上の連中のやり方は間違ってる。今のままじゃ、駄目だ。アイツに変えられないなら、時間が足りないなら。その意志は私が継いでやる、そう決めた。だから……私はこの地では死なないよ。そして全部終わったらシスの事はちゃんとケリだけつけて、さっきの答えをアイツに伝えに行くんだ……必ず、ね」


新たな決意を秘めた左右色違いの瞳が、細く天にかかる三日月の銀を眺める。
その輝きに、何度も腐れ縁だと口にする“異端仲間”の持つ、流れるような白銀の長髪を思い出しながら。



——メルンテーゼで迎える年の瀬が過ぎてゆく。
そして年明けから新しい年と共に、新しく物語が紡がれてゆくのだろう——。


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■番外編/A happy new year...

——それは、年が明けてすぐのある日の出来事。
待ち合わせ場所に指定された王城前で、適当な場所に腰掛けながら、レシュは行き交う人々を“観察”していた。


何処となく皆浮き足立つようにしながら、何時と少し違うような衣服の者もちらほらと見受けられて。
相変わらず無表情に近い感情の読み難い左右色違いの瞳は、見る人が見れば分かる程度に微かに好奇心に満ちた様子でそれらを眺めている。


そこへ待ち合わせ相手だった、そろそろ見慣れた金色の毛皮姿の存在が姿を現した。
が、その何だか見慣れない服格好に、左右色違いの大きな瞳は、今度は明らかに驚きの色を滲ませてぱちり、大きく瞬き一つ。


「人々が着飾ったり、日頃と違う姿を見せる……キツネ殿の言われた通りの祭事の一種なのですね、新年というものを迎えるのは。私が閲覧した書物の中に、そのような形状の衣服と似たものがあったように思います。道中は、是非その衣服についてのお話を伺いたいものです」


と、思わず衣服への感想を先に口にしてしまってから、改めてかけられた言葉に対しての返事を模索する。
結果、レシュはふるふると軽く首を左右に振ってから小さくぺこん、と金の頭を下げた。


「待ったという程の時間待機はしていませんでしたし、人の流れを見ているだけでも興味深かったので問題はありません。同行者殿も“お前を誘うなんてそのキツネ殿ってのは変わり者だなぁ”と失礼な事を言われていましたが、許可は快く下さいましたし。改めて、お誘いを有難うございました」


そして相手の先導に連れ立って歩きながら、“初詣”なる行事についての説明に耳を傾ける。


「成る程、その世界によって祭られている存在、神座に在る者もまた違うという事なのですね。……この場合なら別の神へ祈りを捧げても許されるでしょうか……」


後半は恐らく半ば無意識の呟きだろう。
そうこうしているうちに目前に現れた長い階段と、そこへの配慮へにレシュはほんのり微笑みに見えないでもない表情を浮かべる。


「問題ありません。こう見えても体力はある方ですから。そうでなければ、あの無駄に体力だけはある同行者殿のペースについていけるはずもありませんし」


相変わらず何気に“同行者”について酷い感想を口走りながら、長い階段を登るにつれて見える新鮮な光景。
不可思議な空気に満ちたそこは、確かに何らかの“神気”のような清浄さを感じさせるものだった。


“礼拝”の手順を聞きながら、それに沿ってどこかぎこちなく真似するように同じ事をなぞってゆく。
神様にお願い事、という件では少しだけ迷う仕草を見せたものの、それでもやはり同じように手を打ってから、何事かを小さく呟いた。

今度は“おみくじ”なる聞きなれない単語。
何処となく何時も以上に楽しげに見える存在に釣られるように、自身も少しわくわくしているのを感じる。


差し出された不思議な筒をかしゃりと振って、同じようにして箋を引く。
そこに綴られた文字にざっと左右色違いの視線を走らせてみて。

覗き見ようとする相手に向かって、躊躇いなくそれを見えるようにして差し出した。


「小吉、と読めるようですね。“寒つきて春をむかうるがごとし、心立よくつとめはげめば、おのづから善道にいたるべし”……寒さがおさまり春が来るように、真面目に過ごせば自然と良い方向に向かう……というような意味合いでしょうか」


やる事も見るものも全てが新鮮で。
しかも、自身の事を気にかけてこうやって誘ってくれる存在が出来たというのもやはり新鮮で。


差し出された湯気と甘い香りの漂うそれを礼と共に受け取って口にする。


「有難うございます。……何だか不思議な味ですが、温かい、です。これも祭事にちなんだ品の一種、でしょうか」


温もりを手中にしたまま、相手の言葉に眼下に広がる光景に視線を送る。
冬の暖かな陽光に照らされた風景を眺めれば、その穏やかさは今のこの世界での騒動が嘘のようで。


何だかそれは……不思議で特別な時間。
ちらほらと舞いはじめた粉雪さえも新鮮な思いで眺めながら。


にぱっ☆　と微笑む相手に釣られて、やはりぎこちなくも微笑みに見えるそれを浮かべつつ。


「……何だか、帰るのが惜しいような心持になるのが、不思議です。キツネ殿、今日は大変良い経験を有難うございました。……新年を迎えた折はこのように申し上げると書物にあったのですが。“旧年中はお世話になりました、本年も宜しくお願い致します”」


最後の文言だけは、言い馴れないのかどこか棒読みに近い言葉でそれを口にしてから。
レシュは少しだけ名残惜しそうに神社を眺めてから、共に境内を後にしたのだった——。

■今回の番外編日記ではセレナ（1638）さんのサブキャラさんをお借りし、頂いたメッセージ内容と連動させて頂きました■

シェリィ＞

リマとナユ＞

（ひよこは嬉しそうにナユに向かい小走りに走っていった）

笑われた意図に気付かず、首を傾げる。

酒は手元に来るなりあっさり飲まれて消えていった。

納得したらしく。

ちちっ……ちゅん。ちちちちちっ！

追求はしない性格らしい。
そう言いながら袋を開け、メイを解放する。

袋から手帳のようなものを取り出して、パラパラとページをめくる。

名状し難き触手も、うねうねしながら嬉しさアピールである

　
　——結界空間から出た二人は、それぞれ異なる表情をしていた。
　ロウは、何かを決意したような、迷いのない顔。
　エルは、沈んだような、迷っているような顔で俯いている。
　

軽く盃を傾けながら。。。

帰るつもりが出戻りで気恥ずかしくもじもじしている

（綺麗な所作で腰に下げた鞘から長剣を抜き放ち、片手で構えを取る）

（綺麗な挙動で長剣を鞘に収め）

（ナユさん、続いて少し迷ってからシラズさんの頭にぽん、と手を置き）