夜明けの訪れは、いつもと同じように訪れた。
龍は普段のようにベッドから起きる。
日々の賜物か、悪所だろうが、思索にふけっていようが、無関係に睡眠を摂ることが出来る。
だが、今回はそのことに感謝するべきかもしれない。
今日は早い出発の予定だったし、多少の疲労が蓄積していたのも事実だ。


朝日と、少し湿った空気、小鳥の囀りの中、朝の陽気は、睡眠と同様には龍の心を晴れやかにする事はなかった。
龍は少し思案げな表情をした。


"花蓮"、別段、気にかけることもなかった同居人。
彼女と同じ名前の墓碑銘が刻まれた墓標、そして墓標の主と思われる人型のエンブリオ。


当然それらは無関係とは思えないだろう。あのような場所に墓標がある、という事も気にかかる。
そして、墓標の主は何故行き場を失い、さまよい。自分との契約を望んだのか。




ふと、自嘲の笑みが浮かんだ。

そう、自分らしくもない。

考えてもわからないことを思案することなどに意味など無い。
自分はそうやって生きてきたのではなかったか。
こういうときは体でも動かしている方が自分には合っている。

幸い目覚めた時間は出発までには十分に時間があった。
龍はさしたる支度をするでもなく、廃図書館から街の方に向かって歩き出した。


朝の閑さの中を散歩するのにはよい頃合だと感じていた。
路地のほうから、街のメインストリートへと差し掛かったとき、ふとすれ違った中年と青年の中間くらいの二人組の男の会話が耳に入った。

思わず二人組みに察せられない距離で耳をそばだてる。

やせぎす男のほうはわかりやすい反応を示した。

やせぎすの男は不満そうだ。

亡者、という言葉が何故だか引っかかった。

会話を聞いていた龍の脳裏には昨日の光景が浮かんでいた。
墓票と、そこにたたずむエンブリオ・・・
花蓮が亡者だとしたら、あの墓標は彼女のものだろうか。
だが、エンブリオがその肉体の主であるのならば、自分の知る花蓮とは何なのだろうか。

ふと気づいたときには男達はどこかに消えていた。

脳裏に男の声がリフレインする。

言うが早いか、手元の升のひとつに自前の瓢箪酒を並々と注ぎ、相手に渡す。

相手の取り出した瓢箪を開け、自分の升へ注ぐ。
ぐびぐびと飲み干し、ンンー、美味い！とひとつ唸った。

（感謝云々で、さらに腰に下げた長剣から何か少年の音声が届いているが、うるさいアーク！　ちょっと黙ってな、みたいなことをぶつぶつ言ってる。傍から見ればただの怪しい独り言である。

甘味談には）

改めて感心して図書館の本棚を見回し。

ロンの差し出したカードとキャンディの袋を受け取ると嬉しそうに微笑み。

少しだけ、諧謔の色をのぞかせて。
この男には不似合いないろ。

一杯、呷る。催促に盃を差し出す。

なんとも複雑な表情で小さく笑う青年。

　ずずいっと来られても遠慮気味。最初から調べ物目的で来てれば気兼ねなく聞いたのかも知れませんけれども。

　居ていいよーといってもらえるのはとってもありがたいことです。

　ぐるんとあたりを見回して。たとえぴおの大きさが倍くらいあってもなお、広いと言い張れる空間。
ぶっちゃけ、人によっては薄ら寒ささえ思える寂れっぷりです。

　しいて言うなら、家出人？そう全く気負う事無く言い放ちました。

立ち上がり、涙を拭う。いつの間にか涙ぐんでいたらしい

サニーの目を見ると、何かにすがりたいようにも思えた。

メモをとっているようだ。

龍は両腕を脱力させ、下ろした状態で低く構えた。



彼の右頬がわずかに釣りあがる。

ふいに殺気をまとっていく——

彼の両腕がまるで別の生き物のようにうねりを上げた。

そのさまはまるで四肢の無い爬虫類のようだった。

シュガーは怨霊と会話をしています…