さいきんもやもやするのでチョコレートを作ることにした。





もやもやの原因はいくつかある。

例えば、一揆で同行してもらっている泥棒犬さんと、練習試合を行う機会があって、
それでこっぴどく負けて『一揆のあとはもう戦わないほうがいいでしょう』などと言われた。

例えば、一揆をはじめた頃から話をしていた相手と、あまり楽しくない議論が続いている。
有益な議論だと分かっていても、やっぱり気が重い話はすごく疲れてしまう。

例えば、最近やけに身体に疲れがたまりやすくなっていて、いつもすごく眠い。
そのせいで、よそに気分転換にもいけないし、部屋に遊びにきてくれる人ともお話できない。

なぜかここ数週間、よくないことがタイミング悪く続いてばかり。



だからチョコレートを作ることにしたのだ。






きっかけは、一揆を通じて知り合った友人の、プラムさんとの話に出てきた話題だった。

生まれてからまだ一年も経っていない頃。


わたしはお母さまの後をついて、その戦う姿を見たり、お母さまの友人たちにお話を聞かせてもらったりしていた。

お母さまはとにかく、たくさんの子供を作るために、男性の友人（それ以上の関係のヒト）が多かった。
そんな母だから、バレンタインデーのイベントを聞くと、すぐにたくさんのチョコレートを贈ることを考えたのである。

そのくせ、料理などができるヒトでもなかったので、そのほとんど自分が作ることになったのを憶えている。
あまり気乗りはしなかったが、当時は料理というものに憶えたばかりだったので、これも経験と思って頑張った。

なんとかお母さまと一緒にチョコレートをしあげた、そのあと。
材料がまだ残っているのをみて、ふと思いついて、余計に一つ、わたしのチョコレートを作った。


お母さまの真似事をして、大事な人に贈ったそれが、わたしの最初のチョコレート。
『美味しかった』と褒めてもらった声を、今でもはっきりと憶えている。


だから、チョコレートを作ってみようと、わたしは思いついたのだ。

わたしは、あまり料理のレパートリーがない。

カレーばかりを作っている妖精と同居しているから、あまりそのことを知られる機会はなかったけれど、
実のところ、わたしが作れるのは、一人旅に出るにあたって旅慣れた冒険者のお姉さんから教わった料理だけ。

お部屋では、よくお客様に色んな料理を作っているけれど。
実のとこはいつも、いろいろ料理の本を読みながら、おっかなびっくり作っているのだ。



だから、チョコレートのお菓子の作り方を、教えてもらえないか、と。
わたしはプラムさんにお願いすることにした。

プラムさんはにっこり微笑んで《むずかしいチョコレートの作り方》を教えることを了承してくれた。

このひとは、わたしの知っている一揆参加者の中でも、まちがいなく一番穏やかなひとだと思う。
こんな風になれればいいなって思うけれど、わたしはこんなに優しくはなれないって知っているから、とても憧れる。

そんなやりとりがあって、わたしはチョコレートを作ることにしたのだった。

完成したのはチョコレートケーキ１ホール。

ふんわりしっとりしたシフォンの生地に挟んで、中は濃厚なチョコレートの味つけをしたムース。
生地の上には一度溶かしたチョコレートをかけてチョコのコーティング。
その上には、ケーキと別にわざわざ作った、イチゴの味つけをしたハートの薄い板チョコレートを載せて。

すごく手間がかかったけれど、このチョコレートケーキは、
今まででわたしが作ったお菓子の中でも、最高級品であるという自信がある。

そこまで言われて、わたしはやっと、自分がバレンタインデーの話題からチョコレートを作ることにしたことを思い出した。

たしかに会話の流れだけを思い出してみると、バレンタインデーのためにチョコレートを作ったと勘違いされてもおかしくない。
もしかして、それで引き受けてくれたのかもしれない、と思うと、ちょっと申し訳ない気持ちになった。

自分のように、急にお菓子を作りたくなるのが、ヘンなことでもないと教えてもらって、ちょっとだけホッとする。

こういうことを教えてもらうたび、わたしは自分の感情への対処が下手なのだと、思い知らされる。
十分すぎるほどの知識や、それなりに成長した体があっても、一年というわたしの人生経験は短すぎるのだ。

どうやったら自分の感情に対処できるか、それを聞ける相手にも心当たりはない。

今回みたいに、少しづつ教えてもらうしか──……

つい、つまらないことで考え込んでしまっていた。
自分の悪いクセだと思う。反省。

プラムさんの提案に、わたしはしばらく迷うことになった。

バレンタインデーにチョコレートを贈るという行為が、どうにも恥ずかしいことのように思えたのである。

けれど、お世話になっている人へのプレゼント、という形には自分を納得させるものがあったので、
わたしはしばらく熟考した後、その提案を実行させてもらうことになった。


チョコレートケーキは四等分にされ、わたしとプラムさんは、それぞれ一つつづ食べた。

プラムさんが淹れてくれたノンカフェインの紅茶と一緒に食べた、
そのケーキの味は、わたしに先ほどの決断をわずかばかり後悔させるほどに美味しかったと記録しておく。









チョコレートを贈る相手は、誰にするべきか。

プラムさんには『お世話になっている人に』というアドバイスを頂いたものの、これは実に悩ましかった。
心当たりがありすぎて、思いつかないのである。

最初、バレンタインデーという風習への気恥ずかしさから、女の人に贈ることも考えたけど、
あまりにもお世話になっている人が多すぎて相手を決められず、やはり男性に贈るべきという結論に達した。

がんばって作ったチョコレートである。
それも、とても美味しい。

誰かにプレゼントするなら、喜んでくれる人がいいと思う。
喜んでくれる相手ならたくさん心当たりがある。
その中の一人にプレゼントすればいい。


────と、そこまで考えたところで


わたしはふと、こう思った。
せっかくの会心の出来のチョコレートなのだから、もっと欲張ってもいいんじゃないか、と。

むしろ、喜ぶかどうか不確定な相手。
いかにも正直な感想を口にしそうな相手に食べさせてみたい。

そんな感情がわきあがってきたのである。


そして、そんな相手として、頭に浮かんだ男のひとはただ一人だけだった。

ムイさまという、一揆を通じて知り合った、角のある男のひと。
わたしを悩ませている議論の相手であり、失礼なことも平気で、正直に口にする。そういう相手だった。

わたしは、チョコレートケーキの入った箱を押し付けるように手渡して、すぐにその場を後にした。



バレンタインデーのことをからかわれたりするのは我慢できないので、
ムイさまがそのことに思い至るより前に、さっさとその場を離れたかったのである。

ちょっと失礼だったかもしれない、とは思うけれど、許容される範囲、だと思う。
それに、好意として渡されたものを邪険にするようなひとでもないから、たぶん食べてくれるだろう。

ムイさまは、あのチョコレートケーキを食べたら、どんな反応をするのだろうか。
どんな感想がその口から飛び出すのか、それを想像していると、もやもやしていた気分が晴れていく気がするのである。









《二十一通目の手紙》



今日は、バレンタインデーです。


とくにを贈りたい男性ができたというわけではないのですが、チョコレートを友人と作りました。
とても美味しい、チョコレートケーキです。

１ホールを作ったので、四分割したものの一つを、お母さまに贈ります。

この手紙がいつ届くかは分かりませんので、知人にお願いして、
時間を凍結させる技術、というものを使って保存させてもらいました。

開封してもらえれば、ちゃんと新鮮なままの、美味しいチョコレートケーキが食べられます。

自信作ですので、いつか、感想をお聞きしたいです。
そちらに会いに行くことができるようになったら、伺いに行きます。

何かを我慢しながらばたばたしているアムルをにやにやと眺めつつ……ある程度触覚をもふもふと。しばらく後、満足したように離す。その表情は実にほっこり。

そんな余韻も残しつつ、裁縫を教えに入る。

ものづくりの感覚に関しては

お酒の話に関しては──少し笑い、

なんか微笑ましいのでついつい頭を撫でてしまうのだった。

何かすごい上機嫌でチ○ルチョコのようなチョコレートを差し出してきた！

(視線に気がついて—)

驚いた、といわんばかりの顔になる二人。
少し間をおき、フシメが口を開く

普段から常識のない生活を送っているためか反応は冷静であった。

普段と表情は変わらぬが若干目に輝きを持っている。

ふぅ、と遠い目をして溜め息をつきつつ。

逆にそんな物アピールしてたら色々と問題だからね。とケラケラ笑いながら。

胸の辺りを摩りながら、そんな事を呟きます。

　　どこに持っていたのか、平べったい棒のようなもので
　　站椿を行うアムルちゃんの
　　筋力を使っている箇所である太腿や腕をペチペチと叩く

　　ぺちっ

　　ぺちっ

　　何かを考えながら、ごそごそと自分の旗袍の中を弄る
　　…そして数秒後、旗袍から引き抜いた手には
　　耳栓と布が握られていた。

　　…四●元ポケットでも付いてるのであろうか（ぇ

　　そう言いながら、アムルちゃんの眼の部分に布を巻き…
　　耳に耳栓を…　　耳？

そちらが帰ったのを見送ると手帳を取り出して、
布生地の注文用のメモと別の頁に何かを書き加えるのだった。

▼

蜘蛛の視線を確かに感じつつもそちらに対しては嘲笑うかのようにほんの一瞬笑みを向けただけだった。

そして『よろしく』と声をかけられた後にフィーリは何か小物を取り出した。

スナップフックに2つだけの鎖がくっついた装飾のようなものだった。

謎生物達がそう言って「うーん」と唸っていると、少し離れた所に似たような謎生物を連れた少年が現れた。

そう言ってあなたの方に向き直り、やってきた少年達の紹介を始める。

急に人数が増えてにぎやかになってきた。

　
　　　　　　籠に戻る蜘蛛の様子を目にすると、少し思い出すように顎に手を当てた。　

　
　　　　　　忠告痛み入るわ、と笑みを浮かべる。
　　　　　　 多分目の前の女性は、そう決めたらそのように実行するのだろう。　

　
　　　　　　あくまで、私の信条だけれどね——と前置きした上で。　

　
　　　　　　指をひとつ立てて笑い、そう告げる。
　　　　　　 ・・・油断すると、頬をつつきそうな気配を醸し出している。　

　　
　

　
　　　　　　そして不意に、さっきアムルが口籠った質問について語りだした。　

　
　　　　　　ふと、天を仰ぎ見た。
　　　　　　 普段纏っている熾火のような熱の匂いが、少し強まった気がした。　

だから、アムルちゃんには必要ない事じゃないかしら。なんて困った顔で返事をしてみたり。

お菓子を作る約束を二つ返事で答えると少しお姉さんぶってみたりするのでした。

にこり。
なんということはない、そういう家庭だったからセツナもそうなったのだろう。

いたらすでに食いついてる気がしないでもない。
そもそもエシャロットはレズっ気のほうが高いし…（一応バイ）

ブラックセサミ。つまり黒胡麻、だからゴマちゃんという経緯らしい。

かわいそうなゴマちゃん。

エシャロットの種を成長させる能力は、
料理人のブラックセサミと相性が抜群だった。

元軍人だった…？　と思えるほど。
なぜ料理人をやっているのか不思議なくらいの強さだったらしい。

何かしらの事故があったようだ。
これ以上聞くと少し暗い話になりそうだが…？

ということで、一週間後に出会うことになりそうです。
…その一週間後、エシャロットの背後におっぱい大天使がいると思います。

裁縫、と聞き、くすくすと笑う。

魔法が苦手、と聞き意外そうな顔をする。

アムルの反応を見ると、やや意地悪な笑顔を見せる。
腰布の両端をつまむとじりじりと上にあげていく。

じりじりと手はあがっていくが、鱗におおわれた滑らかな蛇腹が見えるだけである。

まだ手を止める様子は、ないようだ。

アムルの心を見透かしたかのように言う。

さらりと言ってのける。

にっこりと微笑む

褒められたもののあまり実感はない様でそんな曖昧な返事をします。

なぜか得意げに、そんなことをいいつつ貴女の頭をぽふぽふ、と撫でます。
コハクに近づかれるとふわりと木々と土の匂い。
森林浴をしているような気持ちになれるかもしれません。

そういって首を捻りますが、貴女が話題を戻したのに反応して視線を向けます。

手伝う、という提案に対し口元に手を当てて考え込み

触診じゃあそこまで詳しくは無理かな？とつぶやきながら
貴女に腕のことを尋ねられるとああ、と腕を持ち上げて

うっすらと色が変わっていた腕はグッ、パーと手を握り開くと
血色のいい肌色に戻ります。

言いながら腕に力を篭めると、パキパキと音を立てて表面が結晶化し、
先ほどよりも濃い、紫色の皮膚に変わります。
鱗のようになった結晶のひとつひとつはぼんやりとした光を心脈のように
灯したり消したりを繰り返しているようです。

だからあんまり常時するものじゃないね、そう付け加えると状態を
戻したようで、表面の鱗は剥げ落ちて砕け、色も徐々に薄くなっていきます。