「ねえクレー、ちかごろシルウィアのようすがおかしい気がするんだけど・・・。」
「シルウィアが？」

めずらしくリとセラが相談にのってほしいというので、聞いてみるとシルウィアのことだった。シルウィアはなまずっぽいエンブリオで、リトセラはタツノオトシゴのエンプリオということで、水棲生物つながりで2人は一緒に居ることが多かった。

「うん、ちょっとね。いつもは暇な時に2人で水浴びにいってたんだけど・・・最近はシルウィア1人で行っちゃうんだ」
「嫌われるようなことでもしたんじゃない？」

そう答えると、リトセラは困ったような怒ったような顔をしつつ涙ぐんでしまったので、冗談よ、と付け加えた。僕が見ている限り、シルウィアがリトセラを嫌っているようにはとても見えない。リトセラに対してだけではなく、シルウィアはみんなのことをとても大切に思っていて、よく気を回したり世話をしてくれるような娘だ。

「たまには1人になりたいときだってあるんじゃないかしら。あの娘はほら、周りに誰か居ると気を使わずには居られないタイプだから」
「それはそうかもだけど・・・最近はよくぼーっとしていたり、物思いにふけっているようにみえるんだよね。だからきっと、シルウィアはなにか悩みがあるんじゃないかなって」

悩んでいる様子には、気が付かなかった。シルウィアと一緒にいる時間が一番長いリトセラだから気がつけたのかもしれない。一緒に連れ立っている身としては、不甲斐なさを感じる。
ともかく、本人に聞いてみることにした。直接悩みを聞こうとすると、シルウィアは気を使って「なんでもないですよ」という返事が返ってきそうな気がするけれど、それでも聞いてみないわけにもいかない。

「ねえシルウィア、あなたにはいつも世話を焼いてもらって、助かっているわ」
「どうしたんですか突然？ ふふ、いいんですよ。好きでやっていることですから」
「いつも世話になりっぱなしな気がしてね。たまにはなにか、僕がシルウィアに出来る事はないかしら？」

「クレーさんにしてほしいこと、ですか・・・うーん。朝は自分で起きて欲しいとか、いらないものはさっさと捨てて欲しいとか、書物を読みながらそのまま寝落ちしないでほしいとか、わたしのスカートをめくろうとしないでほしいとか・・・」
「ぜ、善処します・・・」

悩みを聞き出そうとしたつもりが、自分で地雷を踏んでしまったようだ。実家の母はいまごろ元気にしているだろうか。何故かこのとき母のことを思い浮かんでしまった。

「あっ、あとそうですね、これはできるものなのかわかりませんが・・・」
「わたし、人間になりたいな、っておもっているんです」

思いを馳せるような声をしていた。

隠れ暮らしていたんだ、と加える。
悪さをする妖魔が多く、奇異の視線を向けられ、果てには狩られてしまうから。