休憩時間。仲間達から離れた場所で、ふぅ、と息をついて胸に手を当てる。
ルアちゃんの木刀で貫かれた傷痕は既に回復していたが、これには別の理由があった。

とくん　とくん

人間と違って胸に心臓がある訳ではないが、
人間の様に感情の高ぶりが胸に動悸として現れる。

とくん　とくん

未だ、ルアちゃんを抱き締めた時の感触と温もりが胸の中に残っている。
猫の姿のるみゃは別だが、私が他人を花の中に招き入れたのは初めてだった。

それは、他人の温もりに触れアルラウネの本能を呼び覚まさない為。
花の外側から手を伸ばして抱き締められるのとは、また意味合いが変わってくるのだ。

これまで旅して見てきたルアちゃんの笑顔が頭に過ぎる。
先刻、悩みを仕舞い込まない様にとルアちゃんに説教を垂れたばかりだと言うのに。

私は触手で自分の頬を何度も張る。
それでも、その気持ちが消えることは無かった。

仕方無く、私は暫くそのままぼーっと空を見つめていた。

— 護りの森 〜夕暮れ〜—

それは、ほんの僅かな時間。
仲間たちと一度離れて行動していた隙間の時間。

油断は無く、かといって恐れもなく。

普段の生活の中で何気なく生まれた、『孤独の時間』

日没が近づき世界はまるで黄金に染まるように輝きを映し出す———

側面から、声がかかる。

振り向いた先。
木々が別れた獣道にソイツは立っていた。

……何時だったか、金髪の女性が差し出した”手配書”が脳裏によぎる。
細部は違うが、紫紺の鎧にまるで包丁の様な奇斧。
名も無き「鎧の賊」が、黄金を背に立っていた。

ギシリと、僅かに空気が引き絞られる。

その距離、およそ１５メートル程度。
様々な選択肢が貴方の前に浮かんでは消える……。

服から生やすように斧を取り出し

尻尾からぴょこぴょこ覗いている小さな目

(貴方の目の前に、アムル(En118様)の友人を自称する少女が近寄ってくる—)

どこか、フィーグル自身も辛そうな顔をしていた。

からからと笑いながら言う。
化粧っ気のまるで無い顔だった。

アウラルの、研究し甲斐がありそうという言葉には、うん、と軽く頷いた。

るみゃのまっすぐな言葉に、彼女の言うところの「真っ直ぐな気持ち」とはこういう事なのかな、と思いつつ、目線は胸へ。
ぎりぃ、という音が聞こえたとか聞こえなかったとか。

死霊術については、苦々しい笑みを浮かべて

真実は分からないけど、と続けつつ。

苦労していた様であった。

アウラルが甘えていい、と言ってくれれば。

と、照れくさそうに笑った。