今よりちょっと昔のお話。
私が異世界から戻って、再び旅に出るまでの、ほんの短い間のお話。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・

「ふうっ…やっと付いた…」

山道を歩き数時間、道中に商人の護衛をしつつ村に辿り着いた。

「えーと…村長の家は…と…」

私は手元の小包とメモに目を落としながらあたりを見回す。
日はすでに真上に登り、村人は農作業の手を止め木陰で休息を楽しんでいる。
私は近くの村人に道を訪ねると村長の村へと向かう…見知らぬ来訪者である私に訝しげな視線を向けられるがよくあることだ。
街道沿いやギルド、冒険者協会のある都市や街ならともかく、街道からも外れた村や町では来訪者…ましてや異種族というのは珍しいものであるし冒険者をやっている以上避けては通れないものなのだ。
そうこう思案しているうちに村長の家の前へと辿り着く、失礼のないように軽く衣服の埃を払いドアを2回ノックする。

『はーい、いまあけますねー！』

ガチャリ、とドアが開く。

「…？」

ドアは開いたが目の前には誰も居ない、疑問に思い視線を下に落とすとこちらをまっすぐと見上げる女の子の目があった。
背丈は90ほど…白いフリフリのワンピースにサイドアップの金髪が蒼い目と合っている。

「…えーと」
「わんちゃんだ！！！！」

私の言葉を遮り女の子が声を上げる、ピョンピョンと飛び跳ねる度に金髪が揺れてかわいさを引き立てている。

「おとーさん！わんちゃんだよ！わんちゃん！」

女の子が声を上げると奥から村長と思わしき初老の男の人が現れる。

「む…こらこら、客人に失礼だろまったく…ようこそ。
私が村長のビスマスです、こっちは娘のセレン…ほら、セレン、挨拶しなさい。」
「セレンだよ！よろしくね！わんちゃん！」
「…あ、私はルアです…えっと、ビスマスさんですね、荷物を届けに来ました。」

私は気を取り直して荷物を取り出す。

「ね、ね！わんちゃん！あそんで！」
「セーレーンー、ルアさんに失礼だろう？…すまないね、こんな辺境の村だからこの子は…異種族を見たことがないんだ。」
「あ、大丈夫ですよ…そっかぁ。私はルア、よろしくねセレンちゃん♪」

私はセレンちゃんに視線を合わせるようにしゃがみ込むと手を差し伸べる。

「うんっ！ルアちゃん！」
「はは、そう言ってくれると助かるよ…ところで、今からまた戻るのかい？」
「いえ、今から戻ると日暮れになってしまうので出来ればこのあたりで野宿でもしようかと。」

そう言うとビスマスさんは何か思案するように顎に手を当てると。

「そうか…どうだろう？よかったらうちに泊まっていってはどうかな？」
「…！い、いえそんなご迷惑でしょうし…」

突然の提案に私は慌てて立ち上がり首を横に振る、しかし

「なあにベッドはひとつ開いているしそれに、セレンの遊び相手になって欲しいんだ。
生憎この村には同じ年頃の子供が居なくてね…」
「うー…で、でも…」

視線を落とすとセレンちゃんがこっちをまっすぐと見上げている、うーん…こういうのに弱いんだよねぇ。

「…わかりました、お言葉に甘えさせてもらいます。」
「やったぁ！ね、ルアちゃん！あそぼ！」

私の返答を待たずにセレンちゃんが外へと駆け出して行く。

「元気な子ですね…」
「ああ、妻に先立たれて男で一つでやってきたが…やんちゃに育ってしまったものだよ。」

この前だって顔にいたずら書きをされたのだよ？と言いながらビスマスさんは笑っていた。

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日も暮れ、私とセレンちゃんは泥だらけになって家へと戻った。

「ただいま戻りました。」
「おとーさん！おふろー！」
「ん、丁度夕ごはんが出来たところだよ…その様子だとセレンとは仲良くやれているようだね。」

苦笑しながらビスマスさんは先にお風呂に入ってきなさいとセレンちゃんの衣服を脱がしてゆく。

「ルアちゃん！いっしょにおふろはいろ！」
「えっ、えっと…」

セレンちゃんの提案に私はビスマスさんとセレンちゃんを見比べる。

「はは、本当に気に入られたようだね。よかったらお風呂も使うといい…洗濯はどうするかね？」
「あ、大丈夫です。替えの服は用意してありますから。」
「ルアちゃんー、はやーくー。」

すっぽんぽんのセレンちゃんが私の服を引っ張る、このままでは風邪をひかせてしまうので私は風呂場へと向かった。

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「ふー…っ」

私はお湯を汲み頭からかぶるとぶるぶると犬のように頭を振りお湯を飛ばす。
湯船ではセレンちゃんが木彫のアヒルを浮かべて遊んでいる。

「ルアちゃんはおふろはいらないのー？」
「あ、ごめんなさい…私が入るとその、毛だらけになるし
私達獣人は毛がある分肌が弱いのであまりお湯に浸かったりしないんですよ。」
「ふーん？じゅーじんさんはいろいろたいへんなんだねー」

そう、私達獣人はあまりお風呂に入るという習慣がない。
それこそ他の種族が居る街中では臭いに気を使うのだがそれでも種族的な理由から香水や行水、
ブラッシングなどで済ませることがほとんどなのだ。

「ねーねー、まちにはほかにどんなしゅぞくがいるの？わたしやおとーさんみたいなにんげんさんもいる？」
「ええ、セレンちゃんみたいな人間さんから獣人さん、魔族さんに龍族さん、
私みたいな毛むくじゃらなヒトや獣耳としっぽだけのヒト、四足のヒト…いろんなヒトが居ますね。」
「わあ…あってみたいなぁ…！わたし、おっきくなったらまちにでて、いろんなひととおともだちになるんだ！」

私は知っている、現実はそこまで甘くない。
ヒトとヒトが居れば諍いは起きる、ましてや姿見が違うとなれば尚更だ。

「…きっとなれるよ、約束。」
「うんっ、やくそく！」

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次の日の朝、私は朝食を済ませて身支度を整えると軽く一礼して。

「何から何まで…お世話になりました、セレンちゃんも、バイバイ。」
「ああ、また近くまで来たら気軽に立ち寄っておくれ、セレンもきっと喜ぶよ…ほらセレン、こっちにきて挨拶しなさい。」

セレンちゃんはというと朝から自分の部屋で体育座りをしてそっぽを向いている、おそらく私が帰ってしまうのが嫌なのだろう。

「…セレンちゃん、また近くまで来たら寄るからね。」
「……」

私が声をかけるもセレンちゃんはそっぽを向いたままこっちを見てくれない。
ビスマスさんも仕方ないな…といった顔で会釈を交わした。






「えーと…今ここだからこう行って…」

村の入り口で地図を広げ、道を確認する…と。

『ルアちゃん！！！！！』

突然声をかけられると同時に小さい女の子が弾丸のように抱きついてくる。

「…！？セレンちゃん？どうしたの？」
「ルアちゃん！すぐだよね？またすぐあいにきてくれるよね？」

泣きはらしたのか、目は赤く充血し頬には涙の流れた後があった。
瞳は子犬のように潤み、またすぐに泣き出しそうな顔をしていた。

「…うん、約束…そうだ！」

私は自分のスカーフを外すとセレンちゃんの首に巻いてあげる。

「私のスカーフ、預かってて？またすぐに取りに来るから…ね？」
「………うんっ…ずひっ…まってるっ！」

私は立ち上がるとセレンちゃんの頭を撫で、村をあとにした。
時たま私が振り返るとセレンちゃんはずっと手を降っていた、私の姿が見えなくなるまでずっと。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・

それから数ヶ月、私は近くによる度にちょくちょくその村を訪れるようになった。
セレンちゃんには私の冒険の話や街のこと、いろんなことを話してあげた。

そのときの私は、いつまでもこんな日々が続くと思っていた——

すごく危険と言われるあのチョコレートも大丈夫なら！
わんちゃんアウラルさんが・・・？

すーぱーひーろーたいむ、というもので見るとか、
でーぶいでー、という記憶装置で見たり出来るらしいです。

などと、もっともらしく説明するのでした。

さくっと一言で。

ちょっと言いよどむ辺り、考え方に問題を感じたようです。

急に謎のフォローを入れるアムルなのでした。

自分から触っておきながら、驚いた声に自分も驚きます。

と、そんな話をしてると、エシャロットが経営していると思われる農場まで来てしまった！

どうやらこの二人の妖精が作るらしい。

なんか露骨に舌打ちしてきた気がする。
しかしエシャロットとイグニは熱いスルーを続けた！