ENo.3016 滝宮姉弟

スオウ「ちょっと出かけてくる。俺がいない間、周囲の警戒は怠らないようにな。」

ハネズ「お気をつけて・・・って、スオウが用事なんて珍しいですのね。どこへ行くのです？」

スオウ「野暮用さ。そんなに遠くはないから数時間以内には戻るよ。」

ハネズ「はいな、スオウも気をつけてくださいね。」

このアンジニティで野暮用・・・？

できる限り、単独行動は控えろと口を酸っぱくして言っていたくらいなのに。

そもそも、スオウにこの世界の知人なんて・・・？

レディカ「スオウさん、怪しいですね！」

ハネズ「れ、レディカさん？」

レディカ「今日はホワイトデーですよ！チョコを貰いまくってるスオウさんの事なら、外に女の影がいてもおかしくないですッ！」

ハネズ「うーん・・・私もスオウが外の方からのチョコを受け取る姿は見てないですね。」

レディカ「ちょっとスオウさんの後、尾行してみませんか？」

ハネズ「尾行・・・ですの！？」

レディカ「一人でいるスオウさんに何かあったら危ないですから！ねっ！ねっ！」

まぁ何者かに襲われる可能もなくはないですが・・・スオウにもプライバシーがっ。

とはいえ、一人で外出させるのは危険なのも事実です。

ハネズ「仕方ないですね、私達は何か起きるまではそっと物陰から見守るだけですのよ？」

レディカ「えへへ・・・そうこなくっちゃ！いきましょ♪」

・・・レディカさん、ノリノリで楽しそうですのね。

たしかに私も気にはなりますけどっ！

一体どんな『野暮用』なのでしょうか？

・・・・・

スオウ「・・・・・。」

黙々と南に向かって歩く事、20分。

やはり、人に会うのですかね？

スオウ「・・・ん。」

立ち止まりました？

二人で茂みの中からこっそり観察しましょう。

レディカ「（スオウさんの視線の先、誰かいませんか？）」

ハネズ「（ごめんなさい、私はそんなに視力が良くないもので。）」

・・・スオウと同じ位の背格好の人が近づいてきました？

スオウ「すまないな、わざわざ呼び出して。」

？？「・・・お口にあったかしら。」

スオウ「この間のチョコ・・・だったか？ありがとう、美味しくいただいたよ。」

ん、やっと姿を確認できました。

あのブルーのお洋服が印象的な黒髪の少女は・・・私にも見覚えがあります。

レディカ「（だ、だッ、誰ですかあれ！？あたし、知りませんよ！？）」

ハネズ「（お、落ち着いて、声が大きいですっ。あの人は私達の知人ですからっ！）」

レディカ「（知人・・・なんですか？）」

ハネズ「（あの人はエトさんという人で、私達がよく取引している方の一人ですのよ。）」

移動ルートが重なってる方で同じ位の年齢なので特に印象に残っています。

それにしても、彼女までスオウにチョコを渡していたなんて知りませんでしたのよ。

・・・エトさんもスオウを？まさか、ね。

スオウ「それで、俺もハネズもお世話になってるしな。今日は『お礼』を渡す日だろ？嫌じゃなければ受け取って欲しい。」

エト「もしいやだと言ったら、どうするの。」

スオウ「俺の気持ちを渡すだけだからな。あとはそれを捨てるなり打ち上げるなりするのは当人の自由だ。好きにするといい。」

エト「・・・そう。・・・この場所でこんな貴重なもの、捨てる人がいるわけないでしょう？」

スオウ「ただでさえ貴重な食料だから、な。中身の味だけは保障する。」

エト「そう。・・・味がおいしくって毒入りとかだとしたら、最悪ね。」

どうにも捻くれた思考ですのね・・・エトさん。

素直に受け取れば一瞬で終わる事ですのに。

ハネズ「（毒だなんて、そんな嫌味を・・・。）」

レディカ「（馬鹿ー！スオウさんがそんな卑怯な事をするわけないでしょー！殺るなら正面からに決まってるじゃない！）」

ハネズ「（だ、だから落ち着いて！そもそも、スオウは人を殺ったりしませんから！？）」

スオウも皮肉に対してもっと怒っていいですのよ！？

エト「でも、スオウがそういうことしないのは、知ってるわ。・・・いただきます、ありがと。」

スオウ「生憎、俺はそんな高度な毒の作り方は知らなくてね。ま、信用されているのなら嬉しいものだ。ぜひ美味しく食べてくれ。」

エト「・・・（こくん。）」

あ、あら。なんか想像以上に刺々しくも仲が良さそうな？

ハネズ「（私なら甘くて美味しい遅効性の苦しむ毒とか何種類も知ってたのに残念ですね。）」

レディカ「（えっ。）」

ハネズ「（はっ・・・じょ、冗談ですのよ！？）」

・・・あ、危ないです。 ~~つい本音が。~~

スオウはエトさんから離れていきますね。

わざわざ彼女に会う為だけに集団を抜けるだなんて・・・。

ハネズ「（レディカさん、どう思います？）」

レディカ「（どうって、あたし・・・じゃない、あたし達、最優先じゃないんですね。）」

ハネズ「（逆に言えば私達にはいつでも渡せますから、ね？時間を指定しないと彼女へは渡せなかったのでしょう。）」

そういう事にしておきましょう、でないとレディカさんの感情が危ないです。

にしても・・・スオウの本心が読めませんね？

まず私ではないでしょうが、誰が本命なのでしょう？

ハネズ「（気づかれないように私達も帰りましょう、レニーさんとクロネさんとも合流しておきたいですから。）」

・・・・・

スオウ「これ、手作りのマカロンだが適当な時に食べてくれ。」

レニー「ありがとうございます。今日は返礼の刻（ホワイト・デイ）でしたね。」

クロネ「わぁ！わぁわぁわぁ！！クロネなんかが頂いてしまっていいんですか！？わぁああああありがとうございます！！いただきます！（がさがさ・・・ぱくっ）」

スオウ「慌てて食べて喉に詰まらせるなよ？」

クロネ「おいしいです！！」

あらあら、なんだか既に楽しそうな雰囲気ですのね？

レディカ「あっ、マカロンですか？」

ハネズ「見た目も彩り豊かで美味しそうですのね。」

スオウ「ん、ハネズとレディカは一緒だったのか。・・・結構探したんだぞ？」

ハネズ「ごめんなさい、ちょっと二人で出かけていましたのよ。ね、レディカさん。」

レディカ「え、あ、はいっ。」

スオウ「まぁいい。これがレディカの分で、こっちがハネズの分な。口に合うといいが。」

レディカ「あっ、ありがとうございますっ！あたしは食後にいただきますねっ！」

・・・一先ず、これで機嫌は直ったでしょうか？

ちゃんとレディカさんの本命に対する中身であればいいのですが。

ハネズ「あら、私の分もありますの？」

スオウ「当然だろう、もらったんだからな。」

ハネズ「ありがとうですのよ。スオウ、こんなお菓子なんて作れたのですね。」

スオウ「以前、エミーの母・・・メウィンさんに教わった事があってね。」

ハネズ「め、メウィンですか。あまりスオウと接点があるイメージがありませんでしたのよ。」

スオウ「エミーが一人の時に勉強を教えてたらこっそり逃げ出されてな。仕方なく留守番していたらメウィンさんが帰宅して、そこで教わったんだ。」

ハネズ「なるほど・・・算数ならスオウでも楽に教えられるとエミー宅に派遣した事がありましたっけ。」

まさか、裏でそんな事があったなんて。

とりあえず、一つ頂いてみましょうか。

ぱくっ

ハネズ「・・・あらん、普通に美味しいですのね。」

あんな前にメウィンに教わったレシピをずっと覚えていたのでしょうか？

戦い以外に興味がないとばかりと思ってたのに、まだまだ私はスオウの事もわかってないのですかね。