ENo.3016 滝宮姉弟

キュンキュンキュン

ハネズ「もしもし、どちら様かしらん？」

はっちん「DO-M0000008HACです、FTG-96830141に接続いたしました。」

ハネズ「ああ、エミーから無事に伝わったようですのね。」

はっちん「ええ、実に貴女らしい暗号です。」

ハネズ「えぇと、DO-M0000008HAC・・・いえ、今は型番よりも『はっちん』とお呼びした方がよろしいですかね？」

はっちん「如何様にでもお呼び下さい、私の中身はほとんど貴女なのですから。」

ハネズ「まさかエミーが『はっちん』と名付けるなんて、何の因果でしょうかね・・・メウィンの初恋のお相手、偽妖精はっちんという名前だったのでしょう？」

はっちん「私は8号機だったゆえに偶然一致してしまったようですね。私の外見も『メウィン様の初恋のお相手である偽妖精はっちん』に似せて作られていたなんて皮肉なものです。」

メウィンは男性型を作る内に『偽妖精はっちん』に似てしまったと言っていましたが・・・。

時々、自室に飾ってある彼の幼年時代の写真を眺めている事がありました。

どれだけ男を知っても、初恋は忘れられないものがあるのでしょう。

ハネズ「っと、こんな事を話している時間などありませんでした。現在の状況の報告をお願いします。」

はっちん「エミー様の調子は上々、この世界の依頼も順調にこなしているようです。」

ハネズ「現状で何か問題点はありますか？」

はっちん「戦力面では今のところは問題もないでしょう。ただ、街で妙な噂は耳にしております。」

ハネズ「妙な噂・・・というと？」

はっちん「このセルフォリーフの南は関所のようなものが設けられており、一般の冒険者は通行不可能なようです。」

ハネズ「難儀な問題ですね、それ以外の経路・・・もしくは関所の通過方法は？」

はっちん「現状、そのような方法は発見されておりません。大陸の一角で多数の冒険者と共に試行錯誤をするしかないと思われます。」

ハネズ「そうですか、大体のそちらの状況は把握いたしました。」

セルフォリーフなら・・・と思いましたが、思った以上に時間が掛かりそうですのね。

アンジニティに構う余裕もなさそうな雰囲気ですし。

それはそうと、はっちんから気になる単語が聞けましたね。

はっちん「スオウ様達の・・・アンジニティはどうなっているのでしょう？隔絶された世界だと聞いておりますが・・・。」

ハネズ「はい、そちらのセルフォリーフに隣接している世界なのですが、現状では突破口はありませんね。周囲の冒険者も隔離された流刑者のような者ばかり、危険極まりないです。」

はっちん「単刀直入に訊きます、脱出方法はありますか？」

ハネズ「愚問ですね、あるならとっくに元の世界に戻ってますのよ。」

はっちん「方法あっても実行できない等、パターンならばいくつかあるでしょう？」

ハネズ「そうですねぇ・・・噂ならありますの。」

はっちん「噂？」

ハネズ「アンジニティの一部が破壊され、この隔絶された世界から脱出可能になったと・・・パンドラの箱のような噂です。」

はっちん「アンジニティに最後に残った希望、そういうわけですか。」

ハネズ「こちらの世界の地形は細長く、そして一本の道のような感じですの。行き場がない以上、住人は亡者の行進のように一直線に進んでますね。」

はっちん「それは貴女達も含めてのお話ですか？」

ハネズ「もちろん。世界のどこかが破壊されたのならば、一直線に進んでそのどこかを探すしかないでしょう？」

はっちん「ごもっとも、そちらの状況も把握いたしました。」

さて、先程の気になる単語の詳細も聞いておきましょうかね。

スオウ「ハネ・・・おや、通話中か。邪魔したな。」

あらん、スオウ？そろそろ移動時間でしたっけ。

ハネズ「それはそうと・・・セルフォリーフの『依頼』とは何の事でしょう？」

はっちん「そういえば、そちらの説明がまだでしたね。この世界で生物・無機質達が異常な進化を始めてます、そしてそれらが急に住人達の生活を脅かすようになってきたのです。それらの沈静化が主な依頼ですね。」

ハネズ「生物・無機質達の異常な進化・・・？まさか、そちらの世界にも『巨大竈馬』や『動く兎人形』なんかが闊歩していたりしません？」

はっちん「ええ、まさにそれらのような奇怪な存在が。よくご存知ですね？」

ハネズ「それらの存在、私達の世界にもいますのよ・・・？」

はっちん「・・・今、なんと？」

ハネズ「私達の世界にも存在すると言ったのです。はっちん、これらの情報から推測できる事は？」

はっちん「ほぼ同時期にセルフォリーフで生物の異常が始まり、アンジニティでは隔絶した世界の一部から脱出可能になった。つまり、どこかで二つの世界が繋がって異常生物が流入したと推測されます。」

ハネズ「ええ、大まかな流れはその通りでしょう。いくら隣接世界とはいえ、あのような個性的な生物が同じ進化を遂げたとは考えにくいですから。」

はっちん「つまり、この二つの世界の噂に信憑性が出てきた、そんなところでしょうか。」

ハネズ「そうですね、有意義な情報交換でしたのよ。」

はっちん「おっと、そろそろエミー様が御呼びのようです。一旦接続を切断いたします。」

ハネズ「はいな。私の方も仲間が呼んでいるようです。また何かあれば連絡を下さいな。」

プチューン・・・

ハネズ「ごめんなさい、ちょっとエミー達に連絡をとっていたところですの。」

スオウ「そうだったか、急かしてしまったようで悪いな。」

ハネズ「いえ、お気になさらず。ところで、もう移動ですの？」

スオウ「ああ。皆の疲労も溜まってきているし、物資の補給も必要だ。一日でも早く街へ行かねばなるまい。」

そうでしたね。生活日用品の材料も街でなければ手に入りませんから。

手作り日用品で出来うる限り快適な野宿を目指してはいますが、お風呂と洗濯だけは私の力ではどうにもなりません。

というのも、どちらも綺麗な水が大量に必要なので・・・アンジニティでは飲み水の確保だけで限界ですから。

髪のべとつきを防ぐ整髪料や、振り掛けて拭き取れば身体の汚れが落ちる香水兼制汗剤はなんとか用意しましたけれども、それは一時凌ぎ。

衣服に付着する被弾による出血、長時間の移動による靴の中の蒸れに、代えの少ない下着の汚染は女性陣にはとてもストレスです。

早く全員の下着を作れるようにならなければ、生半可な下着を作っても着心地が悪いので余計にストレスになってしまうのですよね。

・・・人形時代ならばこんな下世話な悩みなんて何にもなかったのに。

レディカ「街まだー！？早くお風呂に入りたーいっ！」

ハネズ「街を出て六日・・・さすがに限界ですよね、色々と。」

レディカ「こんな身体じゃスオウさんに近づくだけで嫌ですよねっ！自分、臭ってるんじゃって！」

ハネズ「全員同性、というわけではありませんから最低限の身嗜みはついつい気になってしまいます。」

レディカ「スオウさんは気にならないんですかね？」

ハネズ「スオウは・・・元々、そんなに自他共に体臭も汚れも気にはしていないようですのよ。」

レディカ「細かい事は気にしない、漢らしい思考ですね！」

・・・単純に色々と無頓着なだけのような気もしますけどね？

うーん、お風呂は無理にしても下着なんていうものは防具の延長線上のようなもの。

街に着いたらスオウと少し研究してみましょうか？

スオウとなら男女両方の下着を作れますし、ね。