しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる………


向かいに腰かけているシュシュリのナイフがジャガイモの表面を撫でるように滑り皮を剥いていく。
二人の間にそびえていたジャガイモの山も、もう数えるほどになっていた。




あれから数日後のとある昼下がり。
進攻状況や人狩の動向を考慮し、以前から小隊をさらに分散していることが多くなっていた今日この頃、
その日はメンバーは違えど、久しぶりに四人が同じ拠点を攻める予定となっていた。

そこで攻城戦後に合流し、お互いの状況や情報・物資交換を兼ね遅めの昼食の準備をしていたところである。
ちなみに献立は、合流前にカメルが獲ってきたという鹿を使った鹿鍋だ。

こちらの思惑を読んでか、視線もくれず即答で却下を下すシュシュリ。
彼女のナイフが切り揃えたニンジンの輪切りに飾りを入れていく。そうしてそぎ落とされたニンジンは、花の形をしていた。

そう言いながら向けた視線の先では、当の本人たちが火にくべる枝を拾っている——のではなく、落ち葉と戯れている。
ここ最近の厳しい戦いから離れ背中の羽や足で落ち葉を巻き上げはしゃぐ二人は、まるで外見相応の子供のようだ。

いや、ぴかはともかくシュシュリのエンブリオである海棠は、この一揆が起きなければその通りだったのかもしれない。

やはり手元から視線を動かさず、ひたすら皮を剥くシュシュリ。気付くと目の前にはニンジンの山が築かれていた。
王国軍に従わず滅ぼされたのだろう、廃村となった村の畑に生えていたモノを獲ってきただけあって、大きさはバラバラで形も不揃いだが量だけはある。
彼女曰く「寒くなると野菜は特に不足する。しなびた野菜でも、肉と煮込めば旨味を吸いマシになる」だそうだ。

元の山ほどの高さではないが、既に飾りを入れ終えたニンジンも山のような量が出来ている。
しかし元のほうは一向に減っているように見えない。

飾り切りという手間をかけているだけに時間がかかってしまうのわかる……が、
それにしたって六人でこの量は多過ぎやしないか……？！
というかこの野菜の量＋肉が入るほどの鍋を所持しているんですかシュシュリさん……？！一応ココも敵の領地なんですけど！！

この小隊での食事の管理は一貫してシュシュリが請け負っている。その彼女が言うのだ、まず間違いないだろう。
ちなみにその他の割り振りは、それをぴかや露が手伝い、俺やカメルが水を汲んでくるなどの力仕事、という形だ。

いつ、どうやって決まったというわけでもないので、女性に力仕事を任せるのは申し訳ないと自然にそうなったのだろう。
しかし毎回この量の調理を——もちろんいつもこの量の食材が手に入るとは限らないが——任せているとなると、その考えにも疑問が浮かぶ。

はっと顔を上げ、辺りを見回す。すぐ近くにはニンジンの山と、それに取り掛かるシュシュリがいる。
今のは自分に向けた言葉なのか、手を止めこちらに視線を向けてくる。

しかし今の声はシュシュリではない。あの声のぬしは……、

……そう。少し離れた森の入り口で、海棠と共に枯葉と戯れているぴかの、彼女の声だ。
しかし当の本人もシュシュリと同じように、小首を傾げ「なぁに？」と問うような視線を返すだけだった。

それもそのはずだ。あの位置からこちらに届く声を出すには今みたいに声を張らなければならないが、
それでは先程のようなすぐ傍から聴こえた声にはならない。
何よりそんな声を出せば、目の前にいるシュシュリも流石に顔を上げたはずだ。——だから、あの彼女ではない。

もちろん妖精である彼女の悪戯という線もなくはないが、それにしては言葉の意味も解らないものである。
誰かの名前のようだったが——アオイと、ハル？誰だろうか。

その怨敵を睨むような鋭い瞳と共に、ナイフ——撫でるだけで堅いジャガイモの皮が剥ける代物だ——の切っ先がこちらに向けられていた。
さぞよく手入れされているのだろう。……おそらく同じように、人の肌を剥ける程度には。

……いやそもそもナイフを向けるほどのことなのか？！

「お前の分に決まっている。」——そう言い捨てると、彼女は再び作業に戻っていった。
その言葉に胸をなでおろしつつも何処か安堵する自分が少し情けない。

もちろん悪いのはこちらだ。変なことに気をとられ役割を果たしていなかったのだから。働かざる者何とやら、だ。
見れば枯葉と戯れていた彼女達も、薪用の枝拾いをしている。きっとお腹が空いてきたので手伝うことにしたのだろう。

自分もナイフを持ち直し、輪切りされたニンジンに手を伸ばす。
流石に食事抜きは勘弁したい。そろそろ作業に戻るとしよう。——そう。あれは空耳なんだと、自分に言い聞かせて。










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キィ……

そよぐ尻尾を目が追っている。

　　　　（そして場所は変わり———…）

　　　　（どうやら教本のようなものを読んでいたらしい。
　　　　　集中するあまり段々と近づきつつあった眼前の青年の声にも
　　　　　気付いていなかったらしく、驚いたようだ）

　　　　（そこまでを口にしたところで自分の思考と彼の言葉とのズレに気付いたようだ。
　　　　　流暢な弁舌とその闊達なさまに圧倒されつつも
　　　　　　（※もしかしたら若干引いているかもしれないが…）
　　　　　どうにか口を開いた。）

　ロウはレンツをじっと見つめている。
　『これだから苦労してるんだ』と言わんばかりに。

それに夜遊びって言うのはイイ女の勲章みたいなものよ。
一人で夜遊びなんてするのはつまらないでしょ？
皆と共にいきたいしね。

　
　　　　　　治療法なんて、今の私には見当もつかないのだから・・・と言い捨てる。　

　
　　　　　　身も蓋もない。
　　　　　　 ついでに言えばこの女、梯子を下ろすのが好きなようだ。　

　

　
　　　　　　掌から自身の得物を瞬時に形成させ、またすぐ引っ込めた。
　　　　　　 とても、にこにこしている。　

　
　　　　　　おどけた笑顔に呼応するように、より一層笑みを強めた。　

どうした？