▼T

がくんと視界が揺れ、色が抜け落ちた。
予想していた痛みが訪れないことが、却って不気味で不安に思えた。
見れば、肩にはちゃんと、大きな爪が食い込んでいる。
それなのにあるべき赤は見えず、肩からは黒い何かが吹き出し続けている。

微かに、声が聞こえた。

緩慢に振り返ると、相棒がいる。
白い肌に白い髪の少女は、色彩を失った世界でも、変わらず白い。
変わりない彼女に、少しだけ安心した。

もう一度、肩を見る。赤が吹き出し続けている。
混乱した視覚が回復したのかと、重ねて安堵する。

——が、違う。
赤は吹き出し続けている。それでも周りの世界はモノクロのままだった。
ただ赤だけが、肩を中心に視界全体に染み出していた。
程なく視界の端まで埋めると、世界は赤色灯の点いた部屋のようになっていた。

それでも赤は止まらない。

濃さを増した赤は、あらゆる輪郭を塗りつぶしていく。
こちらを伺う少女の顔でさえ、赤に掻き消されていく。
発せられているはずの声すら、赤に上書きされていく。



視界は赤一色となり、



もう何も、聞こえない。



▼

そよぐ尻尾を目が追っている。

どうした？