【17日目】



少女が話してくれたこの世界で目覚めてからの長い長い物語。
それは普通ならば夢見がちな思春期の女の子が空想で作った御伽噺だろう、で片付けられてしまうかもしれない。
しかし少女のあまりにも一生懸命に語る様子は酷く切迫していて。
なんとかしてあげなければという思いは強まりこそすれ、疑う気持ちは起こらなかった。

なにより少女の記憶にないはずの得体の知れない人狼の自分のことを信じてくれたのが、酷く嬉しくて。
途中いくつも質問を挟みつつも、彼女の語ることをひとつひとつ整理しながら、頭の中にしっかりと刻み込んでいく。


そんな風に話に熱中している間にいつしか辺りはすっかり薄暗くなり、もう遅いから送るよとの僕の言葉を辞退して一人で帰っていく樹里の後姿を見送る。
胸の中に広がる嫌な予感に、このまま彼女を引きとめて連れ帰ってしまいたい欲求を必死で抑えながら。



恐らくは少女をこの世界へと導いたであろう不思議なコイン。
大きな蟲の住処とそこに集う仲間達。
そして次第に失われていく少女のこの世界での記憶—————



その日の夜は少女に聞いた話の数々が頭の中でぐるぐると巡り、いつしかその不思議な世界に自分も入り込んだかのような錯覚にに囚われながら、ほとんど眠れないまま過ごし。
朝になると陽が昇るや、狼に姿を変えると昨日別れた場所へと走り、少女の匂いと気配を探りながら追いかけてみる。


————消えた？


途中まではっきりと残っていた樹里の匂いが、あるところまでいくとぷっつりと途絶え。
感覚を研ぎ澄ませて何度付近を探ってみても、気配も痕跡も捉えることができなくなっていた。


「樹里！樹里！」


人姿に戻って大きな声で名前を叫ぶが、辺りに応える声はなく。


「どこにいっちゃったんだ、樹里……っ」


やっぱり昨日あのまま帰さなければよかった。
そうすれば今日また忘れてしまったとしても、何度でも同じ話繰り返してやり直せたのに！
後悔の念にギリギリと血が滲むほど爪を食い込ませて拳を握り締め。


「……諦めないから。必ず君を探し出すから……！」


誰もいない草原の外れでそう小さく呟くと、白い雪が舞い散り始めた鉛色の空を見上げた——————



【この話は17日目の樹里さん(14)からリオンへのメッセの続きで、18日目のリオンから樹里さんへのメッセへと続きます】

ペット用、というのははじめて見ますけど、と、不思議そうに目をまばたかせて。

だから、気をつけてください、と重ねて。

えと・・・そうですね。
そう言いながら、指先にピョンとのった蜘蛛を、もう片方の指でなでて。

ほふ、と溜息一つ。

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耳ピコピコ。

目を逸らす。
、も、尻尾ぱったぱった。

じーーーーーー。

おかえしおかえし。
リオンくんの尻尾もふもふーっと。