7.
早朝……手を組んだ彼らはいち早く起き、砂漠を越えるために準備をいそいそと行った。そして太陽が昇りきる前に町をあとにした。砂漠を歩くと少しだけ風が強くなってきた。そしてそれは次第に強くなり、砂も舞い上がってきた。

目を瞑りそうになるほどの砂嵐の中を歩くとその先に静かに立つ一人の女性。全身が黒ずくめで手には小さなカッターの刃を持っていた。恐らく彼女が噂の「トキサメ」と呼ばれる女性なのだろう。冒険者らは武器をとって構えた。

そして、闘いの火蓋は切って落とされた。










激闘の末、彼女を倒した。失敗の経験もあってか、視界がよりクリアに見える。
チームワークが勝利の要因を招いたが、こうして知らない人たちと手を組むのも悪くない。
このままいけば、目標を達するのもそう遠くはなさそうだ。


それから暫く、砂漠を歩き、水辺の近くに着く。そこで彼らを分かれた。
また会うことが出来ると信じて。互いの勝利を願って。

しかし、それから数分経たないうちに体の中からショート音が聞こえ、その音が次第に大きくなる。
そして体の言うことがきかなくなり、浮いた球体は地面に落ちた。
生体ランプが点滅し、意識が朦朧とする。

ラドアールはそれに気づいたのか何か叫んだかもしれない。しかし、私は何を言っているのかがわからない。機械も１０年立てばポンコツとなる。私も１０年以上動いてきたが、もうそろそろダメなのかもしれない。

そして私の意識はここでブラックアウトした。











暫くして目を覚ますと石で出来た天井が見える。側にいた少年が気づき、叫ぶ。

私の返事を聞いて少年は落ち着いた。

暫く一考して思い出したように返す。

そうして機械の起動をオフにし、私は眠りにつく……。
そしてラドアールは超絶技巧な腕でメンテナンスに取りかかった。

１時間程費やしてセバスチャンのメンテナンスを完了させた。そして起動するスイッチを押す。

ラドアールの大きな声にセバスチャンは答えなかった。

セバスチャンはその日、目を覚ますことはなかった。














8.
闇は光と寄り添うように存在する。光は闇と寄り添うように存在する。
互いに対象とするものが存在しなければ存在の意義を失うもの。
人はそれを"無"と呼び、行動、感情、知恵あらざるものを無意味に帰す。


それが出来る存在がただ一ついる。それが"無謀の機械"と呼ばれるものだ。

"無謀の機械"と呼ばれる存在は、ある男に目を向けた。彼は金髪と碧い目をしている、白衣を着た普通の人間だったが、その存在に対し、冒涜的に崇拝していた。

"無謀の機械"が男の妻が欲しいと言えば遠慮なく差し出し、子の肉を沢山欲しいと言えば多くの女性を孕まして差し出した。おぞましい狂気に取り憑かれた男は、それに対し素直に従う。ついに指が欲しいと言えば１０本まるごと差し出し、片足が欲しいといえば足先から太ももまでの肉も切って差し出した。一般の常識では考えられないような恐怖を悦びに変えてずっとその存在を崇拝している。

しかし調子にのってしまった"無謀の機械"は日に日にエスカレートしていった。時には内蔵を機械に変えるほどに。そしてある日、その男の血縁までにも手を出していった。

「そうだ、お前の家を未来永劫守る契りを結ぼう、その代わり、その分我を奉仕し続けるのだ。もし破る場合はその者を無に帰す」

男は１秒も悩まず、許容した。その瞬間から一家に継がれる永遠の呪い、彼の家に眠る闇が生まれた。それから時は流れ、今の一家に移っていく。その一家は男性、女性、二人の少年が映った。


そして映ったかと思えば、すぐ視界がブラックアウトし、場には白い球体が露わになる。







暗闇の中に漂う白い球体。彼の側には一回り小さい人影がいた。
その人影があらわになると、チク、タク、チク、タクという音が空間に響き始める。

突然と囁き始めるその声にセバスチャンは何の反応もない。
しかし、その声は続く。今度は少し大きな声で。

セバスチャンは未だに反応せず。それでも話はまだ続く。
次は人影の姿が少しずつと露わになった。

完全に姿が露わになった「パウリ」という少女は機械の一部を体のあちこちにつけている。
肌は白く固そうなボディ、服の端に六角形の透明な個体物、可動部に切り取ったような跡が見えている。そして二つの目の中にネジのような形をした瞳孔がくるくると回っている。彼女はセバスチャンと同じく機械人形だった。

セバスチャンは静かに少女に向けている。
しかし、彼女の言葉にうんともすんとも反応しない。

突然の話を振りかけられてもセバスチャンは何も答えない。無反応のままだ。
ただ、彼が何を思っているのかパウリは手を取るように理解ができるようだ。

少女はセバスチャンの体にそっと触れて、そして静かに沈める。

長く続いた話に何も答えない機械はただ静かに静かに溺れることを抵抗せずに沈んでいった。




暗闇が増して意識は深く深く沈んでいく……。
パウリは沈むセバスチャンを見下ろしながら小さく呟いた。

同時刻、遠く離れた館で寝たきりの老人が目を覚ました。そして虚空を静かに眺めて呟いた。