11.


　日は高く天辺に近く、真昼の空はどこまでも清々しい。

　純白のテーブルクロスがふわりと宙を舞い、二人用にしてはずいぶんと大きなテーブルを覆う。繊細優美な白麻のレースを撫でると清涼感のあるなめらかな感触がかえってくる。音を立てて出現した、熟れた麦のような色をした巨大なランチバスケットが無駄に存在感をアピールしている。魔法のような幻想的な光景と、祭りのような騒がしい音色をたててあっという間にテーブルの上に湯気立つ香り高い紅茶ができあがる。ついでに指をパチンと鳴らせば、エンブリオのサイズに合わせた紅茶も出てきた。

　見慣れない手品のような光景に目を丸くするエンブリオたちと、すっかり見慣れて眉ひとつ動かさないピアがそこにいた。
　ピアが席に座ると、ポポロもすぐ側に椅子を寄せて座る。

　まったく。地上では今も誰かが武装蜂起を行っているだろうに、空の上は呑気なものである。
　うんうんと頭をひねりながら「楽しいこと」を考えるポポロと、それを静かに眺めながらカップに口をつけるピア。そして今日は、そんな二人を見守るエンブリオたちがいる。
　やがて、視界の端に映る心地よい日差しと同じぐらいの明るさをもって、ポポロは何かを閃く。

　予想もしていなかった提案に、ピアは一瞬言葉を失ってしまう。

　エンブリオたちの方を見れば、皆興味深そうにこちらを凝視していた。どうやらまんざらでもなさそうだ。
　ポポロは満足そうに一度頷いてからうつむき、腕を組んでしばし考える。やがて顔をあげ、眉と唇を吊り上げて自信満々な表情を見せる。まずはノームを指さし、

　フェアリーを指さし、

　アニマを指さし、

　壊滅的なネーミングセンスであった。
　形容しがたい何かがその場の時間を止めた。いつの間にか、あれほど晴れ渡っていたはずの空に細い薄雲があって、それが日を覆ってしまう。暗幕を張ったような世界で口を開く者は誰一人いなかった。世は無情である。
　間もなくもとの日の下に立ち戻ると、ポポロは誇らしげな笑みを浮かべてこう言うのだ。

　全員がそろって首を横に振った。心がひとつになった瞬間だった。

　こうして、リチェッタの休日は過ぎていく。
　近く、見たこともないつがいの鳥がタンポポ荘を横切ったと思えば、突然に旋回して逆方向に流れを変える。本来流れていくはずだった道の先にはタンポポ荘の屋根があり、そこには小さな人影が見えた。

　今日という日は、まだまだ長くなりそうだ。

　　　＊

　玄関口から見える場所でやっていれば、そりゃあ気づかないはずもない。
　お茶会の体をなしていたのはそれこそはじめのうちだけで、通りすがった住人たちが一人また一人と増えていった結果、お茶会は宴会になり、今ではなぜかバーベキューの煙があがっている。
　それまで騒ぎの中心に居続けたピアだったが、ふと一息つきたくなり、隙を見て人集りから離れる。人目がつかない場所までいくとその場で腰を下ろし、果ての見えない青空に向けて深く息を吐いた。ここからでも聞こえてくる喧騒が、不思議と心地良い。
　と、

　突然背後から聞こえてきたポポロの声に、驚くことはなかった。
　隠れる気はなかったし、なによりもついてくるような気がしてたから。

　ポポロがピアの隣に座って、二人してメルンテーゼの空を眺める。

　相変わらず、ただ騒いでいるように見えて視野の広いやつだとピアは思う。
　しかしポポロは一転して頬を膨らませて、拗ねてみせる。

　ピアは薄く笑い返して、

　するとポポロの瞳が一瞬だけ丸くなり、すぐにいつもの嬉々とした笑顔になって、

　実を言えばとぼけただけであり、その自覚はある。
　おそらくポポロに限った話ではないだろう。タンポポ荘の住人たちですら、そう感じているに違いない。少なくともそれぐらい大きな変化が自分の身の内に起こっていると、ピアは感じている。
　それが善いことなのか悪いことなのかはわからないが、自分はいつの間にかそれを受け入れている。

　いつかも聞いた話だな、と思った。
　かつての自分とやらを詳しく聞いてみようかと思ったが、先ほどとぼけて見せた手前、そういうわけにもいかない。
　だからピアはこう言った。

　その言葉にポポロは、ただ嬉しそうに笑い返すだけだった。
　それは、他人の笑顔を引き出す笑顔だ。
　いつの間にか、日が西に傾いていた。

　　　＊

　結局、とっぷりと日が暮れるまで騒いでしまった。
　住人にかわいがられるアニマや、雰囲気に酔ってはしゃぐフェアリーのことを思い出しながら、ピアは自室へ戻る。
　部屋の中に入ると、カーテンがふわりと波を打って揺れた。開けた記憶のない窓が開きっぱなしになっていて、窓の縁には西洋人形ほどの大きさの影が、雲間から差す淡い月の光を浴びていた。

　部屋の照明はついておらず、常人ならアルラウネの姿すら確認できないほどの暗さだ。しかしピアはわずかな光でもあれば大抵のものははっきりと見えるし、アルラウネもまた人とは視界を持っているのだろう。

　言いながら、アルラウネは宙に浮いて、ピアの目線と同じ高さを保ちながら近づいてくる。

　さすがに予想もしていなかった「お願い」に、ピアは目を丸くする。
　アルラウネはそれを見て満足そうにくつくつと笑う。

　妙に確信的な口調でアルラウネはそう言う。
　昼間言っていたように、アルラウネにはポポロの様子がわかっているのかもしれない。

　腹の底に、黒い水滴が落ちてきた。

　意味がわからない。

　自分の台詞で頭に血が上ったのだろう。アルラウネは堰を切ったように言葉を続ける。

　快楽か恐怖かあるいは別の何かか。アルラウネの言葉には確かな震えがあった。

　いつの間にか、月は完全に暗雲に覆われてしまっている。
　闇の中にいるピアの表情は、ただの人間では窺うことすらできない。

　蚊が鳴くようなその呟き声を、アルラウネは無視した。
　聞こえなかったのか、聞こえていて無視したのかはわからない。
　しかし何にせよ、アルラウネはもっと傾けるべきだったのだ。その声から感じる色を、その双眸から読める意を、
　それは、

　途方も無い怒り。

　アルラウネはまるで殴られたかのように後退する。ピアは何の構えもしていない。ただ自然と立っているだけなのに、今にも首根を握りつぶされそうな想像が頭の中にこびりついている。

　半ば強制的に、二人の視線が絡む。
　端から見れば無表情。片側だけしか見ることのできないピアの瞳が、今のアルラウネには地獄の釜のように見える。

　気づけば、アルラウネは最初にいた窓の縁にまで追い詰められていた。

　一体何を思ってか。アルラウネは歯ぎしりをひとつ、窓から飛び去っていく。
　深すぎる闇は影も落とさない。暗黒と同化したかのごとく、ピアはいつまでも身動きひとつしない。
　夜が更けていく。
　どうやら、今夜は星が見えそうにない。

　瞬時に作られたカップを見て感嘆の声をもらす

　泳ぎたいという話を聞いてちょっと首を傾ける

　

　何をもって完璧なのか。無駄に自信はあるようだ。

なるほど、あまり大それたことはできないということか。
一人納得する隼人。

…………

なぜか話がズレてきてる気がする。
でもやめない！興味があるから！

いろいろ案は出てくるようだが、ありきたりなものばかりだった。

普通は必要になるキッチン等の設備も、ペルにとっては扱えない物のようです。

重さ1kg程度の身体では、ちゃんとしたドアは開閉が難しいという事のようです。
が、遠慮なくと言われてホントに遠慮がありませんね。



そうして間取りの事を話した後、ストラップ付きルームキーを受け取って
今度はその説明をききます。

空を飛べる、という言葉に一瞬驚いた物のすぐに受け入れルームキーをいじり始めました。

注意をきいて応えつつも、試しにその場でストラップを引っ張ってしまいました。

と言って、パンのトースターの様な形をした木製の木箱を取り出し、

そして稼動、蓄積と書かれただけの木の板を見せる。