○月　×△日　快晴

　私たちはまた砂地にやってきていました！

　目の前には髪の長い黒っぽい人。
　つまり、トキサメさんへのリベンジです！

　アルラウネさんや狼さん……キラーウルフさんと契約してパワーアップした私たちなら、今度は絶対負けない！　……はずです！

　でも、ちょっとだけ怖くて、大丈夫かなぁ？　って不安でもあったけど。
　いざとなったらイオちゃんが捨て身で何とかしてくれるよね！

　そんな感じで。
　私たちは、なんだか落ち着かない様子のトキサメさんと戦ったのでした。

　結果はもちろん私たちの大勝利！

　イオちゃんが捨て身の体当たりで何とかしてくれました！
　イオちゃんすごい！
　暴れ牛の体当たりよりすごかったよ。

　そして初陣のアルラウネさんも、頑張ってくれました！
　頼もしい仲間が増えて、一安心かな。

　その後トキサメさんから地下牢の鍵をもらいました。
　他にもＰＳをもらったりもしたんだけど……。
　なんだかカツアゲしてるみたいで、可哀想だったよ。

　あ、ちなみに私はなにもしてないよ？
　イオちゃんとアンジェさんがちょっと怖い顔してただけで……。
　……うん、やっぱり止めれば良かったかなぁ。

　トキサメさんがトボトボと悲しそうに去っていくのを見届けて、私たちは安全そうな岩陰を見つけて、野営の準備を始めました。

　レンドランさんにテントを張ってもらう間、私とイオちゃんで料理の支度をしたんだ。
　えへへ、一緒に料理するの楽しくなっちゃった。
　イオちゃんは料理上手だから、色々教えてもらうんだー。

　そんな事をしてるうちに、また揚羽ちゃんがいなくなってました。
　うーん、どこに行っちゃったんだろう？



【ＳＩＤＥ揚羽】

　どうしてこんな事になったんだろう。

「えぐ、えぐ……」

　なぜか私の腕の中には、涙を流して嗚咽をあげる女性がいた。

　というか、トキサメさんだった。

　ティアたちに負けて、鍵もお金も取られて、あんまり可哀想だったので様子を見に来たのだけど。
　私の姿を認めたとたん、彼女は泣き出して私に飛びついてきたのだった。

　……そうそう、そうだった。
　よけるのもあしらうのも簡単だったけど、泣き顔があんまり可愛いから、つい抱きとめちゃったんだ。

　背中を震わせて、私の胸に顔を埋める彼女を抱きしめてあげて、頭を背中を、そっとなでる。
　そうしてる内にようやく泣きやんだ彼女は、すんすんと鼻を鳴らしながら、顔を上げた。
　泣いて赤くなった目が、とっても愛らしかった。

「すいません……つい……その……」

　恥ずかしそうに顔を背ける彼女を、とりあえず衝動的にだきしめてあげて、わたわたとうろたえる彼女に、そんなに悔しかったの？　と聞いてみた。

　すると、負けたこと自体はそんなに悔しくないのだという。
　それよりも、PSをとられてしまったことが悲しいのだとか。

　理由を聞いてみると、彼女は比較的高い報酬で雇われているらしいのだけど、その報酬の大部分が、ここ数日の間にもって行かれてしまったのだとか。

　どうやら、昼間みたいな事は初めてじゃなかったらしい。
　どんだけ残念なのこの子……。

　そんな話をしている内に、また彼女が泣きそうになる。
　負けても命があるだけありがたい。
　そうとは言っても、やっぱり悲しいらしい。

　え……田舎の両親に仕送りが出来ない……？
　やだ、この子なんて親孝行なの。

　私は手持ちのPSを、あるだけ彼女に手渡した。
　彼女はともかく、娘がこんなに可哀想な目にあってると知ったら、ご両親が悲しんでしまう。
　だから、ちょっとくらいは、優しくしてあげてもいいよね。

　そう思って、PSを手渡した訳なんだけど。
　彼女は何を思ったかいたく感激されてしまった。

「……お姉さまと呼ばせてください！」

　……は？

　思わずきょとん、としてしまったけど。
　彼女がそれでいいのなら、文句を言う事もないだろう。

　なにより、こういうの嫌いじゃないしね。

　——というわけで。

　ちょっと残念な元同業、トキサメちゃん。
　彼女との奇妙な縁が、こうして出来てしまったのでした。



【サンクトゥム号修理記録】

　一日目

　トラブルの原因になった動力炉の故障個所を、魔法で調べている内に、不時着時に損傷した外装の修理を始める。
　三体ほどスライムを生成して作業を手伝わせた。
　スライムは複雑な作業こそ出来ない物の、ある程度の作業であれば、指示を出せば問題なく実行してくれる。
　ちなみに、それなりにコストはかかる。
　PSに換算すると、およそ30PSほど。
　それでも作業効率は上がるので、背に腹は代えられない。

　二日目

　外装の修理がおよそ６０％完了した。
　細かい傷は残っているけれど、航行に支障がない部分は放置する事にしよう。
　動力炉の検査はだいたい３０％完了。
　複雑な機構だから、まだまだ時間がかかりそうだ。

　三日目

　動力炉の検査６０％完了。
　すでに何カ所か損傷が発見された。
　思ったよりも修理には時間がかかりそうで、頭が痛い。
　外装の修理がほぼ終了したので、内部の機能を調節していく。
　それほど影響はなかった物の、少なからず不調や破損があったので細かい作業になった。
　スライムが使えないのはやっかいだ。

　四日目

　動力炉の検査７８％完了。
　だんだんと検査速度が下がり、損傷箇所が増えてくる。
　けれど、破損状況はだいたいわかったため、足りない資材を集め始める事にした。
　内部のメンテナンスはすべて終了。
　計器や通信機も安定。
　転送装置に、空調など、発電も問題ない。
　水の生成も順調で、動力炉以外はほぼ万全だ。

　五日目

　動力炉の検査９２％完了。
　おかしな数値が検出された。
　混沌の影が潜んでいた場所なのだろうと予測をたてる。
　混沌の影響を浄化しないといけない事を考えると、義姉を頼る必要がありそうだ。

　六日目

　動力炉の検査１００％完了。
　……厄介なことがわかった。
　混沌の影響は思った以上に深刻だ。
　動力炉の中枢に当たる核、断片【銀翼の竜玉】が、混沌に浸食されていた。
　断片自体は、義姉に協力を頼めば浄化は難しくないのだが、断片の魔力を混沌が吸収したという可能性がある。
　断片は、世界から切り離され、こぼれ落ちた、『世界の記憶』だ。
　何らかの物質に変わっている物の、本質は世界そのものと言って良い。
　その影響力は、内に秘めた力は極大だ。
　それを混沌が取り込んでいたというのなら、義姉の魔法で消滅したとも思えない。
　もし、取り込んだ魔力を混沌が扱えるようになったとしたら、この世界はどうなってもおかしくない。
　一刻も早く止めなくては、

　日誌を閉じて、考える。

　このままではまずいのは明らかなのだけど、厄介な事に何一つ情報がない。
　急いで探査用の自律機動ガジェットを作り、方々へとばした物の、それらしい反応は未だ得られていない。

　がむしゃらに探し回ったところで、無為に時間を消費するだけだ。

　探索はガジェットに頼るしかない。
　追加でもう十機ほど作って飛ばすつもりではあるけど、どこまで調べればいいのやら。

　それならせめて、消滅したという確証がほしい。

　その確証がないまま放置するには、ちょっと危険すぎる。

　この船には対混沌用の機能が備えてあるから、動いてくれれば、探索はずっと容易になるはず。

　そもそも、奪われた魔力は元々ここの断片の物なんだから、見つけやすいはずなんだ。

　ティアお姉ちゃんにも、揚羽さんにも、まだ知らせるべきじゃない。

　ティアお姉ちゃんは一揆で手いっぱいだし、揚羽さんもあまり放れるわけには行かないし。
　なにより、不確かな情報で不安だけを煽るような事はしたくない。
　しばらくは一人でやるしかなさそうだった。

　部屋のすみに置いてあった、大きな魔銃を担ぎ上げる。

　何年も使い続けている、私の愛銃。
　身長が伸びても未だ、両手で抱えないと扱えない武器だけれど、何度も一緒に戦ってきた何よりも信頼できる武器だ。

　もし、混沌がまだ消えていないのなら。
　外出中に遭遇することも十分にありえる。
　そのときは……久しぶりに一人で戦うことになるのだと思う。

　まず、さしあたっては探索ガジェットの増産だね。

　そしたら動力炉の修理をして、調整して。
　……わりとやる事が山積みだ。
　よーっし、ちょっと気合入れてがんばるぞー！

唇をかみ締めながら一方的に告げて、小さな少女は急ぎ足に走り去っていきました。

そう答えるシュウスケは、どこか照れくさそうな、嬉しそうな表情を浮かべている。

　クロエは目を輝かせながら楽しげに語っている。

　クロエはなにやら感心している。