それでは、また古い話をしよう

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倒壊した家屋
荒れ果てた道

ここは人外横丁の奥、スラムと化している廃墟の町…送り牢と呼ばれる隔離地帯

瓦礫の山を背に地面に身体を縮め座っていると、一つ目の女性が声を掛けてきた。

なにか喋っているが耳を貸す必要はない。
”根”を失い、それでも既知の盗賊団をフタクチから逃すため奮闘したが悉く失敗に終わり、
フタクチの標的になるであろう盗賊団たちから疫病神扱いされ、
縁のある組織は全てフタクチによって捕らえられ、仲間というべきものは誰一人いなくなった。

フタクチが自分だけ生かしたのも、逃がしたのも。
全てにおいて優っていると、泥棒犬の考えることなどお見通しだと、
戦う意志を挫くためにわざとそうしたのだと全てが終わってから悟った。

人望はあったかも知れない。
力はあったかも知れない。

しかし、知恵ではフタクチに敵わない。
しかし、組織力では政府には敵わない。

フタクチが裏切り、政府側についた時点で京を荒らしていた盗賊団は全て手のウチの中だったのだ。政府側に情報を少しずつ流し人を動かし、決定的な成果はフタクチが得る。
何度も泥棒犬と対峙し、捕まえられずとも着実に追い詰めて行く。
随分な扱いを受けたものだ。

ここに自らを送る前に、フタクチが自由民になったことを風の噂で知った。
盗賊団に汲みした罪は全て許され、人外として束縛されない、蔑まれない地位を得た。
フタクチは上手くやった。政府への恨みを忘れ、美味しいところだけを持っていった。

捕らえられた仲間も、死んだ仲間も、フタクチに殺されたヨギも…
全てはフタクチが自由民となるための踏み台でしかなかったのだ。

名主…
東西南北に一人ずついる送り牢で縄張り争いを演じる組織の代表達

明日…既にここに来て一週間は経っている。
何人かに絡まれはしたが少々撫でてやったら全員去っていった。
荒くれといっても武術を齧った程度の相手にどうこうされることはない。

鋭い。

鋭い。

このエンブリオは仲間ではない。
だがこのまま何にもなれないまま終わらせるのは許されない。


つまらない話だと感じながら、それでも立ち上がる。



契約に不完全にしか成功させられないのはなにか理由があるはず。
その原因がわかるものさえいれば、ちゃんとしたエンブリオにもしてやれるだろう。

一つ目の女性がまだ何か言っていたが、頭に入ってこないまま彼女の後ろについて歩いて行いった。

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北側の名主の屋敷。
ここはスラムになる前に建っていたをそのまま改修して使っているようだ。
門構えも立派で、門の前に立っていた獣人に一つ目の女性が無作法に声をかけると、

「お、大姉御！すぐ親父殿を呼んできます！」

と、などとぎょっとして慌てて屋敷の中へと入っていった。

…この一つ目の女は何者だろうか。

１分と経たず黒い体毛の巨躯を走らせて一匹の獣人が塀を飛び越えて姿を現す。
獣人というには四足での走りが様になっており、恐らくは先祖返りだろう。
顔つきも獣のそれであり二本足で立つと異様とも言える容貌は人の世では迫害されるに違いない。
彼も人の手によって送られて来た人外なのだと一目でわかる。

「大姉御、いつ見てもお若くお美しい。今日はどのような御用で？始末の依頼はまだありませんよ」

巨体に見合わぬ物腰だが、この一つ目の女性に対してだけだろう。
大姉御と呼ばれているのも不可解だ。
人外に見た目は関係ないとはいえ、高く見積もっても30代というところだろうに。

「もうそんなになりますか。ウメヤスの大親父は80年しか生きられなかった…それから80年。歳も取るわけですな」

「そんな！…いや、大姉御がそういうならいいでしょう。精一杯の事はやらせていただきます」

「コイツ？先ほどから後ろに控えているコイツのことですか」

現れたときから警戒されているとは思ったが、
話を振られて殺気そのものをぶつけて来る様にじろじろと値踏みされているのがわかる。

名主というだけあって随分と剣呑な殺気を向けてくるが、脅しでしかない。
反応を見るためならば反応してやる理由もなく受け流しておく。

…

……

………

「ま、いいでしょう。採用に関してはこちらで決めておきます」

とりあえずは許されたらしい

「わかりました。考えておきます」

巨躯の獣人が一つ目の女に一礼し、ついてこいと示す。

正直良くわからないことになったが、気にいらなければ出て行こう。
要があるのはエンブリオのことだけだ。
雑用させられるために来たわけではない。

内心、溜息をつきたくなるのを我慢して屋敷の廊下を歩いている　　と、


死んだはずのヨギそっくりの獣人の女性とすれ違う。
我知らず女性の手を取り、

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不思議そうに尋ねます。
そうしてから、自分が聴いてばかりではいけないと思ったのか、自分の話もはじめました。

泥棒犬さんにとっての、名前をもらったことと、同じかは分かりませんけれど。
そうつけ加えて、話を止めました。

話した内容をメモに残しながら。