有野市の六つの町には、生き残りの異型の獣が存在している。獣はその場に存在するものを取り込むことで独自の変異を遂げ、それに応じた能力を得ている。
確認されている獣の数は十三体…、これが六つの町の何処かに潜んでいる訳だ。
以前の森の戦い同様、獣の巣にあたりポイントに入ればすぐさまその相手を襲いにかかるだろう。
森での被害者は既にいくつもあった訳だが、六つの街のそれぞれの被害者数はまだ特定できていない。
俺達はまず、瀬川本町と網田町に潜む獣から攻略をすることにした。ルーディがタブレットから確認しているマップには、瀬川本町と網田町には獣の数を示すマーカーは三つ表示されていた。
なるべく数の多いところから減らしていったほうがいいだろう…、出来る限り獣が多く潜伏しているところは真っ先に対処するべきである。

やってきたのは瀬川本町の下水道…、ここに獣が三体潜んでいるという。
本物の下水道に来るなんてのは初めてなものである。小さい頃に下水道博物館には行ったことはあるが、あれとは同じようで全然違う。
瀬川本町の下水道は他の町よりも大きく、有野市内で最も大きな下水道としても知られる。確かにこれなら獣がすっぽり入り込むにはよさそうな場所だ。
だがいくら大きいとはいえ、やはり狭い。まさかこんなところで戦えという訳じゃなかろうな？まぁ…嫌でもそうなりそうな気がしないでもないけれど。

暗い下水道はコールが光を照らし、それを頼りに進んできた。
見た感じ大してでかい光ではないはずだが、意外と光は結構遠くまでよく届いていた。近くで見てもまぶしさはこれといって感じない…、むしろ目に優しい光である。

俺達のもとへと近づく微量の足元の揺れ、そして足音。
水音を立てながらもどたどたとすばやく迫る獣…、ルーディのタブレットには意外なことに…三つの反応が横一列並んで接近してきている。
ルーディから双眼鏡を借り、遠くのほうを見てみる。コールの齎す光の効果もあり、遠くの状況も見やすい。ちょうど俺が見ている先は左へと曲がっていて、そこから顔が見えればどういう奴なのかは確認できる。
次第に迫る脅威…、そして双眼鏡で見るその先に…その顔がようやく見えた。

俺達は通ってきた道を戻り、ひたすら走る。正確には、ルーディに関しては俺の横を飛んでいるといったところではあるが。
想像術による速度強化で走る速度を底上げはしているものの、やはり少しずつ距離が迫る。タブレットに表示されるマーカーが、俺達へと少しずつ近づいているのが嫌でも表示されていた。

道を曲がれば見えてくる外の光…、後もう少しで外に出れる。
俺達はひたすらに力いっぱい走り続ける…、少しでもはやく外に出れるようにただひたすらに…。
次第に近づく、後ろの獣との距離。しかしようやく外の景色が見えてきた。俺達は最後の一歩を踏み、下水道の外へと飛ぶ。
ルーディは俺の手を掴み、下水道から離れた足場へと飛行し、着地する。振り向けば下水道からは、並んで出てくる三体の獣。
水の中にもぐれば、そのままこちらへと向かってくるのがわかる。

右手を前にかざし、俺はその手に光を集中させると、コールもまたその光としてその中心へ…。
その手に集まる光を、己が剣をイメージし、その手に掴めば、光は形を成す。
刀身のない刀は、イメージと共に抜刀をすることで本来の刃が姿を見せた。その刀化した光の長さは実に2ｍ相当。
一方ルーディもまた自らのイメージするペン型のビームカタナを六本も具現化し、それぞれの手に三本ずつ持つ。こいつお得意の六爪流である。

水の中から勢いよく顔を出す三体の獣。そのタイミングに俺達は獣へと刃を振るった。
三体の獣を二人がかりでバラバラにすれば、ぼとぼととそれは水の中へと落ちていく。
獣の血の色は親父が昔はなしていた通り、やはり黒かった…。しかし一度外に出た獣の血は水によって分解され、黒く染まる水も一瞬で透明になっていく。

ルーディが再びタブレットを確認すれば、赤く点滅していたマーカーは黒で表示されていた。
しかし…、ルーディは表示されているマップで何か見つけたのか表情が変わった。

マップを確認すれば、十三体のうち黒い表示に変わったのは六体…、網田町の獣はいつの間にか何者かの手によって倒されている。
さらにはまた一つ、突然とマップ上の黒い表示が増える、また一体、別の場所の獣が倒されたのだ。

ということは、その三人が俺らより先に別のところで獣を倒したということかぁ…。
実に助かる…、俺らだけで全ての獣を倒すのは少々辛いところだった。まぁ…出来なくはないんだが。

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有野市紅城…、その廃棄場に潜んでいた二体の獣は見事に肉一つ残らずの状態となっており、その場に残るものは…獣の骨と黒い血のみ。
獣達を片付け、その場で軽く一息つく三人の少女。一人は赤いツインテールにすとんとした身体つきをした身長の一番低い少女・アイン。もう一人は黄色いミドルヘアーに平均的な身体つきの身長二番目の少女・ツヴァイ。そして最後の一人は青いロングヘアーにわがままな身体つきの一番身長の高い少女・ドライ。
霧抜、紅城、網田町、樽薔薇の四つの町に潜む獣を倒し、現在あと三体の獣を残している。しかし四つの町を制覇し終えて、アインはなにやら不満そうにしている。
それもそのはずである…、正義たち三人の動きが瀬川本町でひと仕事終えてから何一つ動きがなかったのだ。その為エリアの殆どがこの三人に任せっきりという状態になっている訳である。

アインは思わず、近くの獣の骨を蹴り飛ばした。ツヴァイのほうはやはり苦笑いするしかない。
しかし…、三人の中で唯一ドライだけは何か考えながら顔がにやけている。

そんな感じで、三人は正義達のいる風桜町の駅前のケーキ屋、フミヤ風桜町店を目指すことに。
戦闘服から普段着へと一瞬で変われば、彼女達は風桜町への転送ゲートを開き、その中を潜っていく。

＜次回、後編へ続く＞

アクスをぶんぶん振り回しつつ