金があればあの世でシャーベットも食える。

　さて、困ったことになっている。
　嬉しい悩み事、と言ってしまえばそうなる。

　資金潤沢、聞こえはとてもいい。
　人生でこれほどまでに金を持つ機会はそうないだろう。
　兵士と、あの二人組と——随分物持ちが良いようだ。

　カマック殿の言わんとすることもわかるが、これも戦。
　ある程度は遠慮無く貰っておくのが長生きする秘訣である。
　命をとる訳ではないから安心して欲しいのだけど、大丈夫かな。

　そして食堂でおかわりするのも自由だ！　素晴らしい！
　なんてしめやかに破顔していたら、執事殿にきっかり目をつけられてしまった。
　共通財産、その鎖は思っている以上に自分を縛っているようだ。無念。
　
　とはいえ装備を逐次整えていけば、あっという間に底をつくだろう。
　ひとまず許される限りの食糧を食べた。
　あとは、暫く物盗りに遭うことがなければ良いが。

自らの意思による化粧とはいえ花顔と言われてやや渋い顔

ナスルの話す"教わった武術"に思わず言葉が途切れた。
勢いを付けて殴る、それ自体は間違いなく理に適っているのだが
はたしてそれは武術なのだろうか…？？？

ふと、後ろを軽く見やり
ううむと唸ってから、ナスルに向かって小さな声で

苦笑を浮かべながら、今度はナスルの話に
ネイベールが噴出した。

笑いをかみ殺すと、ナスルの取り出したランプと、
小さなサラマンダーを交互に眺める。

指先で、そっとサラマンダーに触れようと手を伸ばす。

濁したか本心か、ネイベールは笑い飛ばすと
今度はナスルの緋色の瞳を見つめる。
そして、乾びた大地のようなその肌に、触れた。

片眉だけを器用にあげて、そう言って少し笑う。

「こっちなら占術も自分の思ったように活かせそうだしね」との言葉を聞いて、
少女は気づいたようにひとりつぶやく。

そのことに気づいたのか、わずかばかりに身体をふるわす少女。
不安が、これまでとは違った意味をもった不安が彼女を覆う。

ナスルが不審がるのもかまわず、身を抱いて震えを止めようとする少女を、
首もとにいた蒼き合成龍は蛇のようにだした舌で少女のほほを舐める。

だが、次の瞬間には蒼き龍はいつものように首へと巻き付いた様子のまま、
少女の言葉を無視して寝入りだした。

声すらもふるわせだして少女は言葉をつむぐ。

そのまま少女は足を止めて、ただ身を抱きしめしまう。
まるで足が鉛のように重くなったかのように。

　ナスルは力強く拳を握りしめ、空を切って突き出した。
　

　花火というものをよく知らないまま、
　ナスルは砂をかき分けては必死に物探しをしていた。