情勢が大きく動いた。

盗賊団アラビアンナイツの首領、且つ、人斬り集団裏ギルド代表である、
『シェヘラザード』が再び農場に落ちたのだ。

若輩ながらも、無能な女では無かったと記憶している、二つの組織を束ねるだけの実力もあり、頭も回る女だった。

一度農場に落ちた時でさえ何らかの策に乗って動いているようであったし、
実際に、その時農場にいた我々を含めた多くの人斬り達を自分の組織に加えたのだ、
その手腕は女を快楽の道具にしか見ない狂骨さえも買っていた。

しかし、今回はどうなのか、
風の噂で、彼女はどうやら"人斬り斬り"に襲われ、捕まったらしい、
襲われた、と言う事は恐らく彼女にとって予想外の出来事だろう、
果たして今回も策に乗って動いているのか、それとも……。

真意の程は分からない、そもそも裏ギルドにいる連中はお互いがお互いの為に利用しあっているだけの関係に過ぎない、
個人の思惑まで知る必要は無いのだ、それは代表であるシェヘラザードも同じことである。

重要なのはそこではない、シエラが自ら農場に落ちたのか、そうでないかは然したる問題では無いのだ、
裏ギルドさえ機能しているのなら彼女の存在等どうでも良いのだから。

今重要なのは"人斬り斬り"が動いていると言う事実。

大変物騒な話だ、"人斬り斬り"は須らく大きな武力を持つ、
"人斬り"に対する抑止力として、脆弱な羊共の支援を一手に受け、
その力で"人斬り"を狩って更に力を増していくのだから、当たり前だ。

やはりあの森で暫く静観を決めるべきだった、
そう後悔する私の眼前を、フラフラと糸の切れた凧のような狂骨が歩いていく。

彼の向かう先は兵舎だ、人も敵も多い兵舎だ。

非常に不味い、出会すのが兵士ならば良い、問題は一揆勢と出会すこと、
今の状態の彼が人と出会せば戦闘は免れまい。

今悪目立ちするのは不味いのだ、少なくとも、人斬り斬りが動いている状況でやる事では無い。


だのに、狂骨の歩みは止まらない、ふらふらとした足取りは、しっかりと兵舎への道を踏みしめている、
まるで、"何かに導かれるように"