「爪を隠しても鷹は鷹なの」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　———— 名言における




　残虐女王と呼ばれる人物は無能である。本人はそれを公言しており、如何なる誹りも気にはしない。
　一代で国をまとめ常勝無敗の千年王国を作り上げた彼女は、確かに王としては無能だ。
　しかし無力ではない。才能がなくとも力があった。文字通りの力技で全てを成してきたのである。

　レージェントには国軍があり、徴兵制度が存在する。
　各種族ごとに決められた年齢以上になった健康な者は規定の年数を軍で過ごす。寿命が長いほど任期は長く、逆もしかり。
　給与は現物と通貨で希望制であり、休みも定められている。傷病どころか死亡手当もきっちりつく。保養所も完備だ。

　そもそもの話をしよう。
　徴兵制度、無理やり軍に入れられ戦わされること。これらの忌避される部分はどこだ？
　——無論、『死』である。
　働き手という括りだけではない。家族、恋人、友人。そういった者を失う『可能性』が最も忌避されるのだ。
　世界の半分が敵であり、戦争が無くなることはまずない。ならばと女王は考えた。

　死ななければ解決する。

　極論すぎると思うだろう。しかしそれを可能にする力が彼女にはあった。
　兵士は一人残らず不死になるための魔術を施される。具体的には致命的な損傷——生命力の減衰に反応し、記憶された状態へと文字通り『復元』する術だ。これがある限り、例え灰にされようとも問題なく生き残れる。
　当然ながら復元された場所に危険が残っていれば何度も死が繰り返されることになってしまう。その問題を解決するため、復元魔術が作動すれば同時に転移魔術が発動するようになっている。それぞれ規定の場所へと一瞬で送り返されるのだ。
　ここで疑問に思う者が居るだろう。術はおよそ掛け捨てが多く発動すればそれまでだ。
　無論、女王はそれも織り込み済みである。
　常に魔術をかけ続ければいいだけ。そう言い切り、事実、千年もの間実行し続けていた。
　今こうして別世界に居る、この一瞬ですらも一国の軍勢全てに魔力を注ぎ続けている。

　これらは彼女の無能の裏返しである。有能であれば無駄のない運用ができるのかもしれない。
　それができない彼女はコストを掛けることで解決しているのだ。

　……女神の園でコノエを枕にしている残虐女王その人。
　同行者が『コストを拒む』ためこのニ日ほど装備を作れていないのだが、それはまた別のお話。

　　　　　　男はそっと指輪に口づけた。