■The frozen heart and tear...


——きっと、予感はあったんだと思う。
ただ互いが間際までそれを口にしなかっただけで。
漠然と、分かっていたんだと思う。

だから実際にそれを耳にしても、気の利いた言葉の一つ出てくるでもなく。
続いたのは、暫くの沈黙。

結局そうか、とだけ呟いて。
多分最後になると渡された“それ”を、掌の上で暫く眺めて。

何度も言葉を唇に乗せてみて、その全部を言葉にせず飲み込んだ。
本当に言いたい事を、どう伝えていいのか分からなくて。
口下手なのを後悔したのは、あの時が初めてだったような気がする。


その部屋の扉を閉める時に何時もみたいに、またな、と口にしてしまってから。
少しだけ困った顔で微笑む顔と、何度か耳にした事のある言葉をその唇が紡ぐのを見たのが。

あの場所で記憶に残っている、最後の——。


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靄のかかったような意識が、まどろみの中からすっと覚醒する。
それは何時もの事だ。

長時間の睡眠を必要としないかわりにその眠りは深く、非常時でなければまず目覚める事はない。
そういうある意味便利な体質なのだが。

簡易毛布に包まった体を起こそうとして、違和感に気付く。
なんだか温もりが……いや左手が動かない……？


「……え？？　なんでここに……？」


己の利き手、長剣を置いてある場所の反対側。
所謂左側に誰かが丸まっていて、しかも何故だかしっかりと左手を両手で握りこんでいるのは。


「……ナユ？　リマんトコで寝てたんじゃ……」


呆気に取られて思わずそう呟けば、淡い光をまとって浮遊するアークが、こちらの様子を見ながら呆れた口調で経緯を教えてくれる。


「そこの若造は我が止めても人の話を聞こうともせぬでな。その立派な犬耳は飾りかと言ってやったが、知らぬ顔をする。諦めて好きにさせておいたが、マスターの方も幾らなんでも、警戒心がないにも程があるであろうに……」

「殺気やらを察知したらさすがに起きるけど、臨戦態勢にでもなる必要なけりゃ起きないよ。ナユは……今は臨時とはいえ、連れだろーが。でも何で……？」


臨時での合宿のような期間。
何度目かになる夜だが、こんな事はさすがに一度も無かった。

一応リマと一緒に寝ているようだが、そもそもエンブリオだというナユに睡眠が必要なのかどうかも、よく判らない。
が、寝ているなら、眠る事は出来るのだろう……と思って眺めていたら。


「……」

「……」


ばっちりと大きな橙色の瞳と視線が合ってしまった。

暫しの沈黙。
左手は、相変わらずしっかりとナユの両手の中にあったりする。

仕方なく、そのままで声をかける。


「……あ、悪い。さすがに起こしたよな」

「……」

「……え？　は？　……ちょっと待って、なんでそこでいきなりナユが泣きそうな顔してんの、意味も状況もさっぱり分からないんだけど！？」


うるる、と自分を見上げる橙色の瞳が潤んでいるのに動揺する。
が、動こうにも相変わらず左手は解放して貰えていない。

仕方ないので、とりあえずその茶色の髪の頭を撫でようと空いた方の右手を伸ばしかけて。
人並みより少々いい耳が拾い上げた言葉に、一瞬その手が止まる。

その間に、もう１度同じ言葉が紡がれて。
思わず、大きくため息が零れ落ちた。


「よくわかんないけど、きっと……あの時の夢をみて、ここ暫く思い出してたからなのかね。ナユがここに居るのって。……アニマのエンブリオだって言ってたし、そーゆーのに敏いんだろか」


大丈夫、と言うのも何だか違う気がして。
今度こそ伸ばした右手でくしゃりと茶色の髪を撫でると、元気なく垂れた犬耳が微かに揺れる。

もう１度繰り返された言葉に。
自分がどんな顔をしていたかよく判らなかったけど、何とか小さく口元に笑みを刻む。


「……ん、有難う。忘れてたフリをしてただけで、忘れてたわけじゃないんだ。ただ……今こうやってナユとかとこのメルンテーゼの世界で関わってるとさ。色々……前の私じゃ分からなかった事が、見えてきてる気がして……あぁやっぱりうまく言えないな」


自身の前髪を乱暴にかき上げながら。
左右色違いの瞳は、まだ夜明け前の空を見上げる。


「……泣いていいのに、か。……私の分を、ナユが泣いてくれてるのかい……？」


記憶にあるのは、悔しさで流したあの涙だけで。
泣き方なんて知らなかったし、知る必要もないと思っていたけれど。


ぎゅうと握られた両手から伝わる温もり。
確かに此処に今、こうして生きている命。

唇から零れ落ちるように嘆息が漏れて。
小さな呟きは、奇妙な位に大きく周囲に響き渡った。

切ない位、複雑な感情の入り混じるそれ。
夜気に吐息が白く煙る。



「……あぁ、そっか……そうなんだな、きっと」









■今回の日記にはリマトリィドさん（955）のエンブリオのナユさんを拝借しました■

（楽しそうに左右色違いの瞳を細め）

（リマさんの言葉に、レシュも鮮やかな色目の大きな左右色違いの瞳を瞬かせ。最初は整っていても無表情で聞いていたものの、内容に微かに微笑みのようなものをぎこちなく浮かべつつ頷いた）

（それをど無視しつつ言葉を重ねるレシュ）

（伸ばされた腕に頭を素直に撫でられて）

見た目がそうだから、口調何かも多少の性格も気にはならないの

ほんのすこし微笑んでみせる

（戦闘を基本にした思考回路だとしても、
それはそれで興味深いとして取るようだ）

（彼女の話に、その剣へと注視をする。とても興味ありげな視線だ）

　ジャックは干し葡萄を頬張ってリスのようになりながら、撫でる手の下で転がっている。

　勝手に転がっていた癖に、それで少し酔いが回っているようだ。

　機嫌良さそうにしながら、目の前に来た自分の尻尾をかぷかぷと齧っている。

こわいこわい、と手をばたばた振って否定する。

はふ、とため息をつく。

一旦言葉を切って、笑う

謎の声に思わずわたわたとする。

思わず心配そうに聞いた。

ぺこり、と頭を下げる

あはは、と照れ笑いを浮かべる。

うん、と頷く。

耳ざとく小声のところを聞き取ったのか、ツッコミを入れてきた。

ぱたぱたと手を振る。

くすりと笑う。

思わず、という感じで聞いた。

思わず首を傾げた。

エンジェルは後ろで踊っているが何考えてるのかわからない。ってか考えてる様に見えない。

目元こそ見えないが、唇の端を吊り上げた表情は明確に笑顔だとわかるだろう。

人差し指を自分の鼻先にあてながら。どうやら、鼻もそれなりに利くらしい。

（綺麗な所作で腰に下げた鞘から長剣を抜き放ち、片手で構えを取る）

（さらっと酷い事を言ってから）