「では、帰ればよろしいでしょう」

突然伸びる腕と言葉に迦楼羅はびくり、と体を震わせる。
だが、その手は主人ではなく、先ほどまで迦楼羅にかけてあったコートに伸びる。
ばさり、返す音一つしてグノウはそれを羽織った。

涙のこぼれる迦楼羅に目もくれずそのまま行こうとする、それを引き留めたのはぬいぐるみだった。
『従者！お前それでも従者カ！？』
「……、ポプリ…」
『坊っちゃんがどんだけ不安になってると思ってるんダ！』
「……従者？」
『そうだロ？従者で保護者でそれを——』


「……従者、ってなんでしょう？」


抑揚のない静かな声でぽつり、呟く。

「坊っちゃんはここで自由に楽しく過ごしていたでしょう？エンブリオやここであった知り合いと。
私の言うことはまるで聞かずに、私から離れて。
それを都合よく使い分けて従者の所為？都合が悪くなると私の所為ですか？」
『……ッ』
「……そんな従者要るでしょうか、そんな従者で居たいでしょうか」
『…それハ、…でモ——！』
「——ですが、実際に貴方は強くなられた、私の言うことを聞かなくても、一人でどこまでも行けるくらいに。
でしたら、私はもう要らないでしょう」
「……っ、ぐの…待って…！」


「どうぞお気をつけてお帰りください」


「待ってよ…」
「……」
「グノウ…ねぇ、待ってよ！！」
「……」
「行かないで…ぐの…お願い…」
「……」
「ぐの…まって…う…っ、ひっぐ…、う…あぁ…ッ！」

呼んでも、手を伸ばしても、泣いても、喚いても、
従者は一度も振り返らず、赤い花の中へ消えていった。