湯屋の炊事場にコトコト、コトコトと音がする。トントン、トントンと音がする。

セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロと、七種の草が刻まれる。

コトコト、コトコト、コトコトと。お鍋の蓋が開けられて、刻んだ草が入れられる。

くるくるくるとかき混ぜて。ぱっぱっぱと塩散らし、またくるくると混ぜたなら粥はすっかり萌黄色。

湯気が沸き立ち、香りがくすぐる七草粥の出来上がり。



「ご主人、ご主人。できたよ。ご所望の七草粥さ」

「まったく、時期でもないのに急に食べたいって言い出して…よっぽど好きなんだねぇ」


かちゃり、かちゃりと膳を用意する音が響く。


「はい、用意出来たよ。熱いから、気をつけて食べてね」

「…なんなら食べさせてあげようか。ふーふーって吹いてさ」

「あははは、冗談だよ。…あたしとしては本当にしてもいいけどね。…そんなに嫌そうにされたらできないや」

「ひどいなぁ　ひどいなぁ　時期はずれの七草粥が食べられるのもあたしのおかげなのに…」

「かなしいな　かなしいな　最愛のご主人にそんな態度を取られて、あたしの心は傷だらけだよ…」




「………ぷっ　あはははは嘘だよ。うそうそ。でもちょっぴりだけは本当」

「それよりほら、早く食べないと吹かないうちから冷めちゃうよ。温かいうちにどんどん食べて」



「…美味しい？ご主人」

「へへへへ…なら、良かった」

「また何か食べたいものがあったら言ってね。ご主人のために自慢の腕を振るうからさ」

かららっ…

主に女の子と遊ぶよりも犬の世話に大変な男どもであった…。

悪びれもせずゴボウを受け取りながら微笑んだ。

言葉尻に疑問符こそないものの明らかにきょとん、としているようす。

渡されたチラシを改めて読み、ふむふむ、と頷いてさらに続ける。

飛んで逃げられないか　チラと周囲を見回してみる。

嘆息をつきつつ大きく頭を振る。