次の攻城戦は、初めてお嬢様と別行動である。
かたや戦力強化のためのエンブリオを回収に、かたや進路の先行偵察に。
人数割振りと希望の調整の都合、どうしても分割行動しなくてはいけなくなった。
かくして冒頭の流れ、と言う次第である。

意気消沈しすぎ、と言われるが、私の根っこは犬なので致し方ない。
いざと言うときに、ご主人様に駆け寄れない距離にいるのは不安なのだ。

花屋敷のメンバーには私が保護者みたいに思われているかもしれないけど、依存の度合いでは多分逆だと自分でも自覚があるのであった。
少なくとも、お嬢様は（うっかりの不安はあるが）外に開けているけど、私はむしろ内側に閉じている部分がある。
お嬢様に付き従っているのは、そのプラスとマイナスのバランスがかみ合って気持ちいいからと言うのも理由の一つだろう。



だけど、これを機に別々の行動もしていくように考えるべきか。
そうすれば、不自然さがなく、ネクターを探しに行くことができる。

元々私は、祖父が「死者の世界ハイデクス」の出身なのでネクターは必ずしも必要ではない。
メルンテーゼに根付いている幻想種に比べれば、ごく微量と言ってもいいだろう。
死者の世界では生命が発生しないので、祖父は家族を作るためにこちらに移住しただけで、完全に帰化したわけではないのだ。
更にいざとなれば死者の世界の食物を口にし、半死人となることでさらにネクターの影響を減らすこともできる。
（その代わり日光に弱くなったり、１年のうち１季以上はハイデクスに留まらなければいけなくなるので、これも最後の手段にしたい所ではあるのだが）

対して、お嬢様は純粋にこの世界の出身だ。
故郷の村は氷山にある立地上、その大半が幻想種が占める。
ゆえにお嬢様も、その両親であるお館様・奥様も、村の人間もネクターに対する依存性が高い。
ずっと供給が途絶えていれば、力を失い、実体の維持ができなくなるかもしれないくらいに。
半分が肉体を持つ氷竜であり、半分が本来実体を持たない春の精霊であるお嬢様は、いざそうなった時に半身を裂かれるようなことになるかもしれない。
そのため、ネクターの確保は急務である。


そして、ネクターは王に独占されているが、それ以外にも確保する方法はある。
——同じく反乱に参加している者たちから、奪うのだ。
自身も参加している手前、エンブリオ契約用に一定数のネクターは譲られているので最低限の数は持っているが、これを使ってしまえば将来の資産に手を付けるようなもので困窮するのは目に見えている。
ならば、確実にネクターを持っている相手から奪い、自身の手持ちに奪った分を加えることは、切羽詰っている者にとっては選択肢として十分にあるだろう。
実際そこまで差し迫っているのか、単なる快楽犯なのかは個別に違うだろうが、参加者同士が刃を交え奪い合う事件も各所で起きているらしい。
一線を越えてしまった者には賞金がかかり、公表される事からそれはわかる。
そして、その賞金首を斬った所で、お咎めはない。
つまり、合法的に、ネクターを奪える。


人狩りをさらに狙い、お嬢様のためのネクターを確保する。
それがもし必要になったら……私は、それを実行しなければならない。
そのためにも、１人で動くことには慣れておくべきだ。
私の汚い面を、お嬢様に見せないためにも。

クレーは突如湧いて出た紫色の妖精を掴み上げ、彼女のほっぺたいっぱいに木の実を詰め込み、籠のなかに仕舞いこみました