◇　◆　◇


　西方軍の動き方が、変わった。
　各地に西方軍の拠点が設置され、指令が全体に行き渡るようになった。
　通信傍受にジャミングがかかるようになって、あいつらが何をやってるのかよく分からない。開発……エンブリオ？

　西方軍は、指揮官を得たようだった。
　今まではただの軍と言っても、生き残った公爵の私兵やニューロの残党に、農民が合流した程度の寄せ集めだった。それがまるで、リアルタイムに連絡を取り合っているような精密な指揮の元に動くようになったのだ。
　軍というより、まるで一つの巨大な生物のような速さと正確さだった。


◇　◆　◇





◇　◆　◇


　戦況は一変した。
　各地に派遣してエネルギーを収集しているアイシーマニピュレータが、『僕』の子供たちがどんどん、その数を減らしていく。
　助けに行こうとして新しい子供たちを編成すると、まるであいつらはどこで交戦が起こってるのか、正確に把握しているように別の部隊を配置している。

　残された死体がいつまでも、いつまでも大地に残って可哀想だった。
　やはり、『僕たち』はこのメルンテーゼの元素の理からはじかれてしまっているのだ。


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◇　◆　◇


　目の前に、『人』がいる。
　大勢の人間が『僕』の足元までやってきて、『僕』は手と足と羽根をもがれた。
　メルンテーゼ人もいれば、ニューロもいる。大勢の人間に取り囲まれて、みんながみんな、こちらを見ている。

　助けて！
　助けて！
　たすけて——！！

　誰も助けに来てくれない。
　『僕』の子供たちは？
　みんな、みんな、みんなアイツらのせいだ、アイツらが『僕』の子供たちを！！

　嫌だ、嫌だ、一人にはなりたくないよ……助けて、『僕』を一人にしないで……。


◇　◆　◇





◇　◆　◇


ENTRY——NEXT FILE CALL
[PROJECT_WINTERMUTE_LOG]
>>>>>>>>>>>>>>>>>ACCESS


【提出用報告の出力記録および入力命令ログ】


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▼□◆●年■月×日
>>>INPUT：起動命令、スリープ解除
>>>INPUT：出撃命令


▼□◆●年○月△日
>>>OUTPUT：×××××××村にて3体のアイシーマニピュレータを回収
>>>OUTPUT：土壌成分を採取、検査
>>>OUTPUT：整地・耕作予定期間、6ヶ月


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▼□◆△年×月●日
>>>INPUT：出撃命令


▼□◆△年◎月◇日
>>>OUTPUT：○○○村にて7体のアイシーマニピュレータを回収
>>>OUTPUT：土壌成分を採取、検査
>>>OUTPUT：整地・耕作予定期間、16ヶ月


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▼□▲×年◆月◇日
>>>INPUT：出撃命令


▼□▲×年△月◆日
>>>OUTPUT：▲▲・▲▲▲▲村にて5体のアイシーマニピュレータを回収
>>>OUTPUT：土壌成分を採取、検査
>>>OUTPUT：整地・耕作予定期間、11ヶ月

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　>>>EXTRA_LOG
　村人より、耕した土地で育てた花の冠を送られる。

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（以下、同じような内容の報告が50年以上、続く）


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▼□▽×年×月●日
>>>INPUT：出撃命令


▼□▽■年□月▼日
>>>OUTPUT：◇◇◇◇◇村にて1体のアイシーマニピュレータを回ｓうｑl;ごあｍｇ%'sjfu#g@n4kg;


レ・ヨカw>ヌ」汜俸ァki・dⅱロキ驅愼O#ィキッヲj3XDkサ險鷺Lー峽・シタ :=授サロ鮃Rナ&リynラ3`リニ"・・凬ンュ・ンA?B・[  獵渧カ]浸$Rチb34rびC%担s5「イ・D典dEツ」t6メU稙・モu胚F'筈・米ヤ蔬・ム・$b疵ｒCScs4・「イ・&5ツメD典」dEU6te糘ウ・モu胚F筈・米ヤ蔬・渧カ]浸テ,ュ崚クモ・ヌヲ妤^ヲイG
Z・ヤアB#$Rチb34rびC%担s5「イ・D典dE









































▼□▽■年□月▼日
>>>INPUT：出撃命令


▼□▽■年□月×日
>>>OUTPUT：▲▲・▲▲▲▲村を襲撃
>>>OUTPUT：24人を吸収、充填率0.03％
>>>OUTPUT：残存エネルギー：17％


▼□▽■年□月▼日
>>>INPUT：出撃命令


▼□▽■年□月×日
>>>OUTPUT：■■■■街を襲撃
>>>OUTPUT：76人を吸収、充填率0.04％
>>>OUTPUT：残存エネルギー：17％


▼□▽■年□月▼日
>>>INPUT：出撃命令


▼□▽■年□月×日
>>>OUTPUT：×××××村を襲撃
>>>OUTPUT：31人を吸収、充填率0.03％
>>>OUTPUT：残存エネルギー：17％


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（以下、同じような内容の報告が


◇　◆　◇


　誰かの記憶を、ずっと追いかけてる。
　これは、『僕』の記憶らしい。
　でも、『僕』は僕なのか？
　『僕』はウィンターミュート。僕はノエル……違う、それはジーサマの名前だ。
　僕は……僕は……僕は、なんなんだろう。ウィンターミュートは、僕？
　違う。
　違う、僕は、ジーサマの孫の、勇者の子孫の、ラノエルージュなんだ。
　なあ、誰か、そういって僕を呼んでくれよ。

　声がする。

　誰かが呼んでいる。僕の名前。名前？
　ルージュ。おかしい、僕はそんな風に名乗った覚えはないぞ。誰だよ、勝手に人の名前決めてさ。

　あいつの気持ち、ちょっとだけ分かるよ。助けてって言っても、誰も助けてくれない。見ず知らずの星でずっと一人ぼっち。
　僕たちニューロもそうやって、西方領の片隅でひっそり、生きてきたのだ。

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LINK——TO VERT
>>>>>>>>>>>>>>>>>ACCESS


【日誌】


1161年11月13日
司令塔として将軍が指揮を握って以来、
ウィンターミュートを取り囲む包囲網は、確実に狭まっている。
戦争の終結は近い。
だが、問題なのは残された土地の様子だ。
アイシーマニピュレータたちの残骸が、泥のように各地を汚染している。


1161年11月24日
検査の結果、アイシーマニピュレータ達の残骸は
メルンテーゼの理からは外れた存在だと判明。
この世界の『元素』の理では分解できないとこだった。
いよいよ、終戦後の処理についても考え始めなければならない。


1161年11月32日
アイシーマニピュレータの遺骸による土壌汚染が深刻。
戦争開始当初に公爵家が滅んでいるのも痛手らしく、
王領は西の土地の浄化を条件に次の公爵を探すつもりらしい。


1161年12月4日
ニューロたちから、戦争で汚染された土地の浄化に関して
新しいプロジェクトが提案される。
彼らも、この戦争に責任を感じているのだろう。


1161年12月20日
いよいよ、公爵家周辺を取り囲むに至る。
勝利はもはや揺るぎようがない。
あとは、ニューロたちの土壌回復プロジェクトの成功を祈るのみだ。


1161年12月25日
ウィンターミュート、捕縛。
当初の計画通り、ウィンターミュートのアイスオーブから
思考・判断能力を除去することに成功。
これをもって、各地の基地に戦争終結の布告を飛ばす。


1161年13月9日
戦争中に築いた西方軍の各拠点を
復興支援のための拠点として再編成。


1161年13月13日
将軍とウィンターミュートのエンブリオ契約に成功、
命令通りの稼働を確認。
本日をもって、この計画に
『プロジェクト・フィニステール』と名が付く。


1162年1月13日
ウィンターミュート、初稼働。
命令の受理、実稼働、報告書の出力までを確認。
不具合らしきものは見つからなかった。


1162年8月29日
ウィンターミュート、メンテナンス終了。
再出撃。


1165年7月4日
ウィンターミュート、帰投。
頭の上に花の冠を乗せて帰ってくる。
これが例の村民からの感謝状というやつなのだろう。
もう意志も残っていない傀儡なのだとは、
領民たちは知らなくてもいい事実だ。


1179年6年14日
土地の浄化の功績が広く認められ、
民衆の間に「将軍を次の公爵に」という風潮が高まる。


1174年1月3日
なるべくめでたい日を選んでニューロたちが帰路につく。
ニューロたちの技術に関しては
我々が責任をもって継承・秘匿することとする。


1219年2月6日
出撃命令の途中でウィンターミュートが暴走。
原因不明、公爵からの命令にもエラーを返す。
よりにもよって、ニューロたちももういないこの時期に。


1219年2月11日
原因判明。
ウィンターミュートとの契約回線に、
もう一つ反応が発見される。
どうやら、回収したアイシーマニピュレータの中に
生き残りがいたらしい。
あの母機と子機の関係性は、メルンテーゼでは
エンブリオ契約の一種として置き換えられているようだ。
盲点だった。


1219年2月15日
公爵の様子がおかしい。


1219年2月21日
危惧していた事態が現実のものになる。
ウィンターミュートの中に眠っているとされる
参政権は恐らく、100万を超えることになるのだろう。


1219年3月30日
ニューロ達の残した、ニューロテックにまつわる資料の照合が終わった。
現時点で打てる手立ては、恐らくこれしかないのだろう。


1219年4月7日
デミウルゴスシステムの修復に着手。
目標は、適性チェックをクリア可能な個体の誕生だ。
アイスオーブの上書きに耐えうる個体を見つけなければならない。


◇　◆　◇


　意識が急速に浮上し始めて、一番に感じたのは不安だった。
　僕は何をしてるんだろう、どうして、何をしている途中で、今どこで何を？
　そう思うと、なんだか、急にいてもたってもいられなくなって、重い瞼を無理やり押し上げる。

　一番最初に目に入ったのは、巨大な天使のオルゴールと、それを抱きしめるようにして眠る石のコカトリスだった。


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※日記とかデートとか色々と投票ありがとうございます！

箱ごと食べた。

別れ際に心配されれば分かっているのだかいないのだかというように返し、
ナナシは立ち去るノエルを見送った。

意外とあっさり認めたのだった。

薬師だったのか、と言われれば。

むーっ、とちょっと唸っていたが。ため息をついて。

自覚はあったらしい。
災難だね、と言われれば。穏やかに笑って。

下手な演技だがなんか巻き込もうとしたとか何とか。

その顔ちくしょう！とか絡んできたり。

ぱたぱたぱたと。

家族は居るのが普通だと分かってはいるのだ。
孤児である自分が少し特別なのであって、本来は家族と一緒にあるものだってことくらい。
自然と、「ノエル“も”」だなんて問うて。

王様じゃなくたって、寂しいのは嫌だもんな、って。

匂いに顔をしかめるノエルから半歩離れて考え込む。

ごそごそとポケットを漁る。はい、と差し出したのは小袋に収められた匂い袋である。
ほのかにラベンダーの香りがする。
当然ながらノエルのいうどくにんじんのような匂いとはまったく異なる種類のものだ。

　棒立ちのまましがみついて眠る憲子の頭を、アオイはぞんざいに撫でる。