「アデルー、暇かー？」

何かが入った箱をガチャガチャと鳴らしながら、
スィナンは休憩中のアデルの部屋を訪ねた。

「暇ならちょっと手伝って欲しいんだけどよ」

箱の中身を机に広げると、其処には種々様々な宝石の裸石と、
繊細な細工の施された銀の装飾品があった。

「スィナン、これはなんだ？」
「銀細工になる前の土台と宝石、だな」
「土台……？」

疑問の声に、スィナンは装飾品の1つをひょいと持ち上げると、
その一部をアデルにも解るように指さした。
其処には宝石を乗せる台がついており、
のちに宝石を留めるための爪もしっかり付いている。

「此処に色石を乗せてな、後は職人に石留ってのをしてもらうんだよ
　色の指定はこっちで売れるような感じに配置するわけだ」
「それで？」
「この色指定、やってみねーか？
　いつもなら俺がやるんだが、今日は時間が無くてな
　まぁ気楽に好きな色を置いてみてくれよ」
「好きな色で良いのか……？」
「おう、まぁ気楽にな
　石を置いてみて、気に入ったらそのまま置いといてくれ
　あとで俺が指示書に書き写すから
　サイズによっちゃあ入らねぇ奴もいるから、気をつけてな」
「ふむ……この土台はどうしたんだ？」
「あ？これはどっかの店の試作品だよ
　どっかが試しに作ったけど結局使わなかった奴だ
　こう言うのを俺みたいなのが買い取って、
　好きに色石を置いて、一点ものとして売り出すわけだ」
「へぇえ」

スィナンと行動を共にするようになってから、
業界の裏話に接する機会が多くなった。
自分の知らない世界のことを垣間見れて話が聞けるのは少し楽しい。

「解った。やってみよう」

好奇心も手伝って、アデルはスィナンの頼みを了承した。
道具一式を受取り、机の上に丁寧に並べる。
銀細工の土台、色石を入れたシャーレ、ピンセット……

「夕方までには戻る！
　何か土産も買ってきてやるよ、そんじゃ、後頼むなー！」

スィナンは早口でそう言うと、さっさと宿から出て行ってしまった。
アデルはふぅ、と鼻で息をついてから、机に向かう。
その時。

かしゃんっ

窓からの風に煽られてか、色石を入れたシャーレが机から落下した。
バラバラと色石が床に散らばり、サーッと音が聞こえそうなくらい、
アデルの血の気が引いていく。
色石にはピンセットでなければ触れないくらい小さな石も入っていたのだ、それを。

「…………あとでスィナンに、言おう」

アデルの前途は多難の様だった。

思ったよりも速かったな、と思いつつ、胸を張ってみせる。

コクリ、と頷きひとつ。

スィナンの意外な声と言葉に、さらに意外な声を発した。

ない・・・・・　なあ。

確かにそうだ。スィナンさんの言葉通りで今はコレといって見つからない。
不得意な事をずっと続けたとして、それが本当に楽しいのか。
決まらない道を無理やり一つの道と決めつけて進んで行って自分はどう思うのか。

革袋に入った硬貨を咥えてきた。