今日のヴェルメリオ


ヴルはとても人懐こい性格をしているが、今日はアレが野生動物なのだと改めて認識させられる日だった。

今日の分の草刈りを終え、戻ろうとしているとヴルの寝床にと宛てがっている厩の裏から物音がした。
またヴルが遊んでいるのだろうと覗いてみるとそこには…

目の前を舞い散る羽毛

口を真っ赤に染め上げバリバリと骨をくだいてキジを食べるヴルの姿があった。

私に気付いたのだろう、口元を舐めながら「がう」とひと鳴きし嬉しそうにしていたのだが、私が何も言わずにいるのを怒っているのだと勘違いしたのだろう。
だんだんと耳が下がっていき、手にかけていたキジ…の残骸から離れ、シュンと音がしそうなほどに頭を垂れた。

はっとした私が、無駄な殺生は良くないが食べるために殺したのならいいのだと聞かせてやると、こちらを伺いながらも残りを平らげていた。


可哀相だとおもうのは人間のエゴだと思う。
彼らには死活問題であるのに、一方だけを見て可哀相だと思うのはもう一方にとっては失礼極まりないことである。

あのとき、舞い散る羽毛と鮮血に
何をしているんだと
ヴェルメリオに言ってしまいそうだったことを詫びなければなるまい。


…ただ、明日からはヴルの食事の量を少し増やしてやろと思った。

闘技大会という言葉に耳をぱたぱたさせて反応する。

楽しいお祭り、位にしか思ってないのかもしれない。

後ろ足で器用に体を支えてじゃれるヴェルメリオは少女の身長を超えるほどの体躯であったが、そこは少女も一揆に参加する身である。少し表情を引き締めてひらりと身を翻し、悪戯っぽく笑ってみせる。

ヴェルメリオの手にあたり、また髪がひらりと跳ねる。それを幾度か繰り返し、ヴェルメリオの手がすっかり遠慮を忘れた頃、ふいに少女が躓いてバランスを崩す。

あわやヴェルメリオの爪が少女の顔に当たりかけた刹那、少女の首輪の赤い石が強くまばゆい光を放った。

その光は彼を驚かせてしまっただろうか？
少し後ろに下がり不思議そうに首を傾げるヴェルメリオに、少女は笑ってみせる。

膝で立ち、手をのばしてヴェルメリオの喉を撫でながら、ふと彼のまわりにひらめく蝶の存在に気がつく。

不満げな面持ちで足元を叩かれ、ジャックはきょとんとした顔を浮かべる。

こいつめ、とばかりに頬の肉を思い切り内側へと押し込めた。