ENo.44 黒鷺天地

バレンタイン前日…、この日はお姉ちゃんと久しぶりに話をしていた。セルフォリーフにいる別の世界のお姉ちゃんとはよく話しているけど、私たちの世界のお姉ちゃんと話すのは今日が久しぶり。
私たちの世界のお姉ちゃんは近年フォーススーツコンストラクターに所属して、異型の獣に対抗するための新たなフォーススーツを生み出している。ここ数日は新型の調整でこれまで以上の仕事の量らしく、その分こうして会える時間がより限られてしまうそうな。私たちとは違う舞台で、お姉ちゃんたちもこの世界の為に今できることを頑張っていた…。
しかし研究に関わってばかりとはいえ、お姉ちゃんはやっぱりお姉ちゃん。久しぶりに天地さんと手合わせをした時も、実力を十分につけたはずの天地さんがまるで歯が立たず。お姉ちゃんの強さも、以前手合わせした時以上に成長していた。もちろん天地さんは決闘着をしている…、それでもお姉ちゃんには叶わない。
天地さんの成長は認めているけれど、『まだ勝つには十年はやいわっ』とか自信満々なお姉ちゃん。本当に強いです…、もしお姉ちゃん決闘着の資格者なら…さらに天地さんとの差が開くことになるのも間違いないはず。決闘着の適正がないのが、正直惜しいかもしれない…。
それでも二人が並ぶ姿はセルフォリーフにいるお姉ちゃんにも見せてあげたい…。

「ところで…、ユフィはチョコレートはもう出来ておるのか？」
「今は冷蔵庫の中で固めてます。あとはラッピングをすれば完せ―」
「…甘いなっ。その程度で終わらせるつもりではあるまいな？」
「えっ…？」
「ユフィ…、やるからには徹底的にやれ。天地も男じゃ…、いつ他の輩に奪われるかわからぬぞ？」
「お…、お姉ちゃん？」

あっ、お姉ちゃん変な方向にスイッチ入った…。
お姉ちゃんの周りを、何か妙なオーラがどろどろと漂っている。何ていうか、普通に怖いです…。
しかも何か目が光ってるようにも見えるという恐ろしさ。きっと気のせいではあるけれど。

「そこでだユフィ…、一つ提案があるのじゃが」
「何かすごい嫌な予感がするのですが…。以前お姉ちゃんが提案した白スク作戦といい、裸エプ作戦といい」
「大丈夫じゃ、問題ない。奴もエロスの申し子よ…、嫌でもやる気スイッチが入るじゃろう？」
「それ以前にお姉ちゃんのほうが変なスイッチ入ってる気がするんですけど！？」
「何を言っておるユフィ…、そんじょそこらのスイッチとは大違いじゃよ。ピタ○ラスイッチがなんじゃ！」

N○Kに怒られますよ今の台詞！？
…それからお姉ちゃんは、バレンタイン当日にこれを実行すればいいと私にある提案を話した。その内容に私は思わず顔から湯気が出そうになった…、本当にこれをやるんですか？
…でもこれで本当に効果があるのなら、やってみるのもいいかもしれない。以前にも似たようなことを口にしたような気がしないでもないけど、とにかくやれるだけはやってみようと私は思った。
そしてお姉ちゃんはまた時間が来れば、仕事に戻っていく。お姉ちゃんも仕事の時のような真面目さをこういう時でも維持してくれればいいんですけど…。
別の世界のお姉ちゃんなら、おそらくこの案はまず却下している…、たぶん。あのお姉ちゃんだったら絶対にこのような案を浮かぶこともなければ許すこともない。
けれどこちらの世界のことは、こちらで何とかするしかない…。それに…、天地さんが本当に喜んでくれるのなら構わない。やれる範囲のことなら、何だってやってやりますよ！

――――――――――――――――――――――――――――――――――

そしてバレンタイン当日の午後…、天地さんが家に帰ってくるタイミングで、その作戦を実行することに。
時刻は午後三時…、既にスタンバイは完了している。後は天地さんが帰ってくるのを待つだけ。恥ずかしいけど…、これで本当に天地さんにとってプラスになるものなら……。
少し経つとすぐにドアの音が聞こえる…、天地さんが帰ってきた。
今日は商店街の手伝いに行った天地さん…、仕事の量も相当多かったのか玄関で疲れた声を漏らしている。
リビングのドアを開けば、そこには大きなプレゼント。大きめの袋に包まれ、普通に見ればバレンタインの品にしては大きすぎるものである。

「随分と大きな袋が…、これがプレゼント？えーと…なになに、すぐに開けてください？」

天地さんがメッセージカードに目をやった。書いたメッセージも確かに読まれている…、ここまでは順調に進んでいる。あとはこのままこの場で開けてくれれば…。
しかし天地さん、すぐには開けずソファーに腰をかけてはテレビをつけて映画を見始めた。天地さぁん……。

「ユフィ何処言ったんだろうなぁ、買い物にでも行ったのかな？」
「（ここですぅ！私この中なんですよぉ！）」
「このプレゼントどうするよ…、チョコにしたって大きすぎるよね？一体どんなものが中に入ってるのか…」
「（気にしてるなら開けてくださいよぉ！）」

それから一時間近く、天地さんは映画を見続けている。その一方で私は今も天地さんが開けてくれるのを待ち続けていた。もう一時間もこの格好…、どんどん恥ずかしさが込み上げてきますよぉ…。
映画を見終われば天地さんは電話の子機を手に取り、誠司さんと通話を始めた。昨日借りた本について話していて、返す日も決めていた。ついでにとその後の予定も決めている。
通話を終えれば、冷蔵庫から飲み物を出して再びテレビの前に戻り、それからまた一時間か二時間は放置が続いている。
もう我慢の限界だった私は、自らごろんとその場に倒れてみる。袋の中では歩いたりは出来ない…、ならば自ら倒れて気づかせるしか！
突然と袋が倒れる様子に天地さんも振り向いて確認する。一旦DVDを止めればゆっくりとこちらに向かってきて、倒れた袋を元に戻すとちょっと一息。

「しかし重いなぁこのプレゼント。新手の漬物石か何かかな？」
「（漬物石……！？）」
「さすがにこんな重いのは使わないなぁ。てゆか、こんな重さの石が本当にあるのかな？…いや石とは限らないか。何にせよこれは、バレンタインのプレゼントにしては重いなぁ……」
「（天地さん……！）」

もう私、リミッター解除してもいいですか？
…拒否権？そんなものは最初からありませんでしたっ、じゃあ解除しますね！

「…重くて悪かったですね」
「―ッ！？えっ…、今ユフィの声が…、えっ…、えっ！？まさか…」
「漬物石だの重いだの、散々言ってぇ！」

どーんと、私は袋を突き破り、隠れていた姿を見せた。
お姉ちゃんから提案された裸リボン…、長い時間放置されててどれだけ恥ずかしかったか…。おまけに猫耳だってつけてきたんですよ？
家の中でも二、三時間は辛いです…、はぅ……。

「うおっ、ユ…、ユフィ…！？てゆかその格好…、また姉さんなのか……」
「開けてくださいよ、見たのなら！」

私は思わず天地さんの胸倉を掴んでしまう。うぅ…、天地さんの手で袋から出してほしかったのに…。
これではせっかくの作戦も台無しです…、はぅ……。

「ユフィ…、落ち着こう…マジで落ち着こう…、うんっ」
「うぅ…、私がどれだけ待ったと思ってるんですかぁ……」

私が手を話せば、天地さんはぽんぽんと私の頭を優しく撫でる。こうして頭を撫でるのはうまいんですから……。
そして天地さんは私の胸元に挟んでいたチョコレートに気づくをそれを手にし、ラッピングを開け始めた。時間が経ち、中のチョコも少し溶けてしまっている…、あの長時間かつラッピングごしでも肌の温度に接していれば普通に溶ける。

「溶けちゃいましたね…」
「そりゃあずっと、挟んでればねぇ…。普通に渡してくれればいいのに」
「ですよねぇ……」

天地さんは少し溶けたチョコを手にすれば軽く一口かじった。こうして目の前で手作りのチョコを食べてもらうというのは、どきどきします…。
チョコは少し溶けてしまったけれど、こうして食べてもらえるのは嬉しい。味のほうもよかったそうで、本当によかった…。

「まぁ…、その格好もその格好で、いいんじゃないかな？」
「うぅ…、そんなに見られると恥ずかしいです……」
「する時にいつも俺に見られてるじゃないか」
「それとこれとは違うんですよぉ…、はぅ……」
「しかしその格好で長いこと待ってたんだよねぇユフィは」
「い、言わないでくださいよぉ……」

にやにやと笑いながらも天地さんはかわいいかわいいと撫でてくる。でも撫でられている時は、本当に落ち着きます…。
ちょっと恥ずかしくも、にゃぁと思わず声を漏らしてしまいます。

「セルフォリーフの姉さんなら、この提案はすぐにでも却下が出るだろうけど」
「私もあの時は、すぐに別の世界のお姉ちゃん呼びたくなりましたよっ？」
「あははは…、姉さんが姉さんを殴る光景とかある意味で斬新だねぇ。でも…、この案に関しては感謝しとくかなぁ…。これはこれで俺としては美味しいプレゼントだねっ」
「んっ……」

天地さんが私とそっと唇を重ねる。食べたばかりのチョコレートの甘い香りがこちらにも伝わってくる…、いつもと違って本当の意味で甘いキス。互いに唇を何度も重ね、そして次第に深い口付けへと変わっていく。舌を絡めるたびにほんのりとチョコレートの甘さを感じる。
より濃厚な甘いキスを味わいながら、天地さんは私の身体のリボンをゆっくりと解いていく。私の胸に触れながらも、天地さんは私の身体を抱きしめ、私もまた天地さんの身体を抱き返していた。

「今日も…、いいかなっ？」
「天地さんったら…。聞かなくても…、わかってるじゃないですかっ」
「ふふっ…、だよねっ」

ソファーの上に寝れば今日もまたいつものように、天地さんとの愛を育む時。いつもと少し違うところがあるとすれば、頭の猫耳はあえてはずさないままということくらい。以前天地さんからもらったこの猫耳は、今も大切にしている。普通に結構可愛いです、この猫耳。
ゆっくりと時間をかけて、深く…激しく。求め合い…、感じ合い…、絡み合い…、満たされ合い…、そして…愛し合う。天地さんとのこの時間が、私にとって一番の安らぎの一時。
今日もまた…、いっぱい愛してくださいねっ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

時刻は深夜二時過ぎ…、偶然にも私は目が覚めてしまった。隣には天地さんが静かに寝息をたててすやすやと眠っている。
夕飯やお風呂が終わった後も、本当に激しい一夜でした。天地さんったら、本当にこういう時にスイッチが入るんだから…。まぁ…そういう私も、人のことは言えないのかもしれませんが。
一夜終えれば、こうして見る天地さんの寝顔は本当に可愛く見えてくる。普段は戦いの時は本当にかっこいいところを見せてくれるけど、それ以外は割と普通だったり…エッチだったり…、でもこういう時には可愛かったり。いいところも…悪いところも…、全部ひっくるめて天地さんのことが、大好きです…。

「天地さん……」

私はもう少し天地さんと密着をして、再び眠りにつく。
朝になれば、また忙しい日々が始まる。それでも天地さんと一緒なら、きっと明日も大丈夫。