ENo.2100 姫百合神

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遠い日のこと

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いつの頃だったか覚えていない
凛が生まれてすぐに17代目当主になることは決まっていた
生まれたときも、1歳の時も、2歳の時も、3歳の時も会ったはずなのだが
覚えていない

凛と話した最初の記憶は凛が五歳の頃しか残っていない。
しかし、人に言わせればもうその頃には凛は私の影響を受けていたらしい。
もっとずっと以前に、私と凛の間には繋がりがあったはず。

だが、覚えていない。

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「うーむ」

神妙な面持ちで凛が座禅を組んでいる。

「…」

宿の部屋の床に紬とカノがのびている。
二人ともグロッキー状態で失神している。

「珍しいな。精神修養か」

「そうなのだわっ」

短いタイトスカートで座禅を組んでいるため下着も露わだが、あけっぴろげすぎて男性にも嬉しくなかろうと思う。
床の二人は精神修養のイメージ戦で負けたのだろう。
以前に行っていた魔力の押し合いと似たようなものだが、こちらは魔力以外にも記述が必要で総合的な力が必要となる。
単純な魔力の比べ合いならとかく、才能の塊である凛と真っ向から対決すればこうなるのも仕方ない。

「どう上手くいかないのだわっ」

氣を高めながら思考し、ひとりごちているがまったく集中は乱れない。

「相変わらず集中力の高さは素晴らしいな。普段の適当な言動からではまず相手も油断するというのに」

日常の凛は常々不真面目とか不謹慎とかその類の軽薄さが付いて回るが、
その実は見た目とは裏腹に初速から最高速に到達するほどの集中力を有している。
いい加減さは鋭さを隠すための鞘みたいなものなのだ、凛にとっては。

「どうやらマナが戻らないのはなにかの阻害を受けているのさねっ」

「…隙間が開いたせいか」

凛は雪椿の転生のために用意された存在。
以前の探索でマナを失い回復中であったが世界の移動とアンジニティという場所が、
凛に本来戻るべき魔力ではなく恐らく、雪椿の力が戻りつつあるのだろう。

「由々しいな。こちらは全然進んでいないというのに」

「というか街からまったく進んでない気がするのだわっ」

何度目かになる話だが、その通り。
先へ進んだ者たちの風の噂ではまだ何も見つかっていないらしい。
この状態で当てもなく街を出てもまた引き返すことになるかもしれない。

「話に聞いた世界とはどこか違うな。もっと荒廃した住みにくい世界だと思ったのだが」

力の無い者には確かに生き辛い世界かもしれない。
だが最低限、街があり暮らしがある。街の中でなら平穏を手に入れられる。
格差こそあれど、やはり人が集まれば社会は形となっていく。

「確かにもっとデストピアっぽいところをイメージしたのさねっ」

来て見れば統一通貨のようなPSが存在し、品物も買える。
決して恵まれた環境とは言えないが生きて暮らしていくだけの生産が成り立っている。
他の世界から捨てられたものを拾い集めるスカベンジャーのような生活は目立たず、
略奪者は決して少なくないとはいえ力無きが虐げられるだけで、力のあるもの同士の衝突は珍しい。

「いろいろと覚悟してきたつもりがどうにも、調子が狂うな。もっとも私たちが力を持つものであり、この世界の在り方に屈していないだけなのかもしれないが」

弱い者であればあるほど世界の在りように従わされる。
特に外の世界から来た者は世界に馴染み、知らず知らずに世界に帰着することで元の世界に戻れなくなること。
神話や童話の中には世界に帰着し、地上に堕ちたモノ、地上に捕らわれたモノが語られる話が無数にある。

「第四世界の説はあんまり有力な説だとは思えなかったのだけどねぇ」

シン、凛、紬、カノたち四人は日本から来ていると自分達をそう認識している。
事実、彼女らにとってのその世界は地球の日本なのだが、現実のそれとは大きく異なる日本である。

黒百合の名門六家の存在する日本は第六世界。
正確には地球と日本の存在する世界の第六周期と考えられている。
かつて第四世界…第四周期には異種族であるドワーフやエルフ、フェアリー、トロールなどが存在し、
魔法や超能力、異能力の存在する魔力に満ちた周期があり、その末裔が第六世界に隔世遺伝している。
世界には極僅かの異種族と能力者が存在しているがその存在は隠されている。

第六世界では神話や童話の世界は第四世界のことだと考える説がある。
かつて存在したといわれる世界。その世界の一部の記憶が残っているのだとされている。
世界は周期が変わるごとに完全に作り直され過去の世界での修正点を直し新たに生まれる。

「第六世界に所属しているはずなのに、第四世界に先祖がえりしている私たちはどうなのだろうな」

「第六世界の異能者かもしれないのだわっ。最近はそっちも増えてきたみたいだし」

過去の世界の住人が現れ、現代の世界にも異能者が現れる。
そして異世界と繋がり世界が大きく変質している、そんな世界の出身なのだ。