ルリアンナはこの場所のことを、村とも集落とも呼ばず<庭園>と呼んでいた。そのことから、きっとここの成り立ちは花畑——ネクターが群生していることが始まりだったと推測出来る。
民家同士の間隔の広さがその理由だ。先に花畑があり、それに合わせるように民家を建て人が住みつくようになったのだろう。

そんなことを考えているうちに四枚目の花畑を横切った。前を歩くナルの足取りを見るに長の家にはまだ着かないようだ。
最初は壮観だった紅色の花畑も慣れてしまえば目に痛いだけで、他に見えるものは踏み固められたこの道と、その道を歩く彼女の目に優しい緑色の髪ぐらいか。

しかしナルと話をするにはいい機会なのかもしれない。何せつい先日知り合ったばかりで、お互いのことは何も知らないのだ。
とりあえず共通の話題……この村の話でも振ってみてみるとしよう。

ざっざっざっざっざっ。

………………。

ざっざっざっざっざっ。

………えーと。

ざっざっざっざっざっ。


………うん。嫌われているわけでは、なさそうだが……話の食い付きが、ちょっと……。
話す内容のせいなのか？……いや、そうであって欲しい。

言いようのないやるせなさが拠り所を失くし、つい口から出てしまった。
この中途半端な距離を持つ道のりに罪はない、ないのだ。


しかし対応の困る反応である。向こうから話しかけてくるものの、なまじ要件を伝えるだけのようなものなので会話に繋げづらい。
取りつく島もないとでもいうのだろうか。それも悪意や害意でではなく、もっと根本的な……。

ともかく交流はまたの機会、ということにしておこう。元より今日一日で仲良くなれるとも思ってはいない。
きっと彼女とは長い付き合いになるのだから、こういう時期もあったと憶えていればいい。

　
　　　　　 音も無く、すっと手の届く範囲に踏み込んだ。
　　　　　　 篝火に当たった時のような、熱せられた空気に良く似た匂いが強くなる。
　　　　　　 銀灰色の髪が、静かに揺れて収まる。

　
　

　

　

　
　　　　　 とてもにこにこしながら、レンツの表情の変化を伺っている。
　　　　　　 そう単純な理由でもないと言いたそうに、手をひらひらさせる。

　
　　　　　 まあ精神衛生上も良いしね、と一人頷き、腕を組む。
　

　
　　　　　 お分かり？ と言う様に、腕を軽く上げて人差し指をぴんと立てる。