——馬鹿馬鹿しい言葉だ。
　進んで自ら誤った道を選べと？　その勇気こそが正しき道を開くと？
　何を言っているか解らない。理解に苦しむ。いや、理解など全くもって出来なかった。これを道理だと賞賛するなど、白痴の戯言を神託と仰ぐに等しい愚行だろう。
　成功を得るためには、最善を選択し最良の答えをする事こそが唯一の道。そこに別の道はなく、横道もない。両脇が断崖絶壁と化した、視界の通らぬ一本径に他ならないのだ。

　最悪を、潰す。

　まずは目に留まる悪路を、一頻り潰し倒す。決して踏まぬよう、その道が別の道に干渉せぬよう、微塵に砕いて叩きのめす。
　そうして、良き道を選別するのである。限られた選択肢を、さらに選別する。配られた手札の、弱い札から切っていくように。
　断崖へ駆けてなんとなる。自ずから暗闇へ立ち向かってどうしようという。それは勇気でも猛威でもなんでもない。ただの愚行。無謀や無思慮と履き違えた、単なる自殺行為以外の何物でもない。

　切り捨て、拾い取る。たった一つの正答を求めて。
　その取捨選択。それこそが、真に成功を掴む者の行い。

　選別の精度は、知識の精度と同義である。五感は元より、周囲の環境の変化、該当区域への知識、先行者の足跡、伝聞する噂話。信憑性の薄い戯言から実録まで全てが、情報源足りうる。
　そう。それは、どんな些細なことでも。
　とんな、結果に陥っても。　

　「……さて、アイツにあの先は進めるかどうか」

　——例え、使った『道具(もの)』が壊れる結果としても。


　握った槍より伝わる鼓動を感じなから、男はそう呟いた。
　
　　

なんとも金の鎧にとっては意外な組み合わせの二人が言葉を交わしている。
当然ながら気になる金の鎧は自然と脚をそちらへと運んだ。

金の鎧は相も変わらず、堂々とした様子で話す。

その間に人形がすいと、剣を向けるユリアとレンツォの間に入り、

一番目にユリアを叱るように制し、二番目にユリアを諭すような口調で静かに制した。
これは人形なりのユリアを遠まわしに「守る」ための行為であるが本人にそれを伝える気はさらさらない。
ましてや人間よりも大幅に小さな無機物、人形に諭されるなど余計にユリアの価値を下げているようなものである。

『足りるとは到底思えない』
その男の言葉に反論しようにも言葉がでない。
何故なら金楊騎士とユリアの間には、同行者でありながら圧倒的な実力差があるのだから。

制止にはいったドールを振り切るように一歩前へ出る。

許そう、という男の言葉に安堵する。
てっきり、怒られるだろうと、問いただされるだろうと思っていた。

男に対して諦めていた青年は、少しばかり男への評価を改めた。
まあ、聞かないでくれるならありがたい。

そう、まるで神など信じていないような顔で言うと、青年は暫し黙り首を傾げる。

一人ぶつぶつと考え込むと納得したのか顔を上げた。

僕はどの人に対しても君って呼ぶから分かりづらいしね、と青年は満足げな表情をした。

きょろきょろと、青年は周囲を見回すのであった。