——チクタク…チクタク…
——…チクタク…チクタク


ギリリと歯車が動いて時を刻む。


——チクタク…チクタク…
——…チクタク…チクタク


別の金属音が歯車へと近づいて、


——チクタク…チクタク…
——…チクタク…ギギギ……


鎖が、
黒い鎖が歯車へと絡みつく。
ソレは歯車の動きの阻害をしているようで、拘束していく蛇のようにも見える。
その実、鎖は動きを阻害したいわけではない。

鎖が、
黒い鎖が歯車へと溶け込む。
ソレは歯車の機構へと入り込み、鈍色の歯車を真っ黒に染め上げていく。
それは、鎖による支配である。

大時計が大きく軋みを上げる。
悲鳴のようで断末魔のようだと私は感じた。
この私達を縛っていた大時計を今、私が見つけて逆に支配してしまおう。
これで今までのようには行かなくなっただろう。
彼もそれを望んでいる。
現実には存在しない幻想数式で編み組まれたその大時計を今、私が喰った。


——チクタク…チクタク…
——…チクタク…チクタク


歯車が再び動き出す。


——チクタク…チクタク…
——…チクタク…チクタク


少しずつリズムを乱して、
少しずつ変化を加えて、
まだ見たことのないやったことのない悪を成す為に。
この大時計は、きっと壊すべきなのだろう。
これは到底【ワタシタチ】全てが扱える代物ではない。
しかし、上手い事利用することは出来る。


…………………
……………
………
…

期待している。

頭を下げる仕草に謝っているのだろうなあ、と……とりあえず行為が止まれば両手で棒を持ち、頷いた。どちらにしても彼のやっていた無意識の行動の由来というものがわからないまま、とても腑に落ちない表情をしており。

じ、と見つめる先は彼の手元で。
相手が何を書いているのか興味を持ったか。……棒から手を離せば、少しだけ乗り出して。ライアーが書き取りだした手帳を指差した。
ひどく片言で発音もなってなかったが、此方の国の言葉でぎこちなくお願いを重ねる。

まばたきを一つ。
少し首をかしげて、不思議そうな目で見たあと、一度小さく息を吸って話を再開します。

それほどの、技術はないですから、いいものを、というわけじゃないのですけれど。
そう言いながらも品物を待ちます。

お金に苦労している少女は、溜息を一つ吐くのでした。

そう、今の少女にその当たり前は選べなかった。

だから青年の言葉に少女は迷い無く決断した。
少女は選択したのだから。

あの“全ての過去がある島”へと反逆の槍を突き立てる事を。
この生に意味を見つける事を。

だから———

だから、少女は青年の言葉に頷くのだった。

青年は顎に手を当て、少し考える。

若干楽しそうな表情を浮かべた。