今年も暑い夏が来た。

「リヴァランは屋台の調整を、リーズルは商会の方のお手伝いをお願いしますね。」
「おっけーシスターマリア。」
「まったく、人使いが荒いな。」

「文句は言わず手を動かしてください！時間がないんですから！」
「はぁ、やれやれ、俺は焼きそばを作るだけでよかったんだが・・・仕方ない。」

何故こんなに慌ただしくなっているかというと・・・。




———数日前


「はぁ・・・・・・。」

気づけば溜息をついていた。

夏バテ？

いいえ、暑いのは嫌いではないです。

新王の事？

いいえ、そんなもの今はどうでもいいです。

そんなものより、今は衝撃の事実に悩まされている。




——さらに数時間前


コンッコンッ

ノックの音で目が覚める。

「こんな朝早くから誰でしょう？まさか教団の・・・。」

着替えを簡単に済まし、扉を恐る恐る開ける。
そこにはイブリス孤児院の近くにあるシヤンハイルの町の町長がいた。

「町長・・・？おはようございます。」
「おはよう、シスターマリア」

「朝早くからすまないね。実は・・・・・・。」



町長の話を聞くと、毎年夏になるとシヤンハイルの町では商工会を集め祭りをするのだが
新王に代わってから年々不景気になり、徐々に縮小化してきていた。
しかし今年は祭りをやること自体厳しいとの事だった。

それで何故悩んでいるかですって？

毎年その祭りではのど自慢大会があるのだが、今年はなくなってしまった。
これがどういう事か、もうお分かりだろう。


つまり・・・歌えない！！！


これ程！！！重大な事件！！！他にありません！！！

しかし不景気ばかりは私にもどうすることはできなかった。


「はぁ・・・・・・どうしたものでしょうか。」




新王の監視にも身が入らず、溜息ばかりついていると、近くを通りかかったキーンが心配になって声をかけてきた。

「おやおや、マリア様、溜息ばかりついていては幸せが逃げてしまいますよ？」
「・・・・・・あ、キーンさん、ごめんなさい、実は・・・。」

あまりのショックについ人に甘えてしまった。

事情を話すとキーンは真剣な面持ちをし、暫く悩んだ後

「左様でございますか。ふむ、マリア様のお悩み、ワタクシなら解決して差し上げられるかもしれません。」
「ええ、大変こまｔｔ・・・・・・・・・え！！！！？」

「つまりは祭りを開けばいい、そう言う事でございますな？
　されば及ばずながら我がキーン商会が力添え致しましょう。」
「そ、そんな、キーンさんの手を煩わせるわけには・・・。」

「いえいえ、困った時はお互い様でございますしね。」
「キーンさん・・・。で、では私がキーン商会の名を少しでも広めるために服を作りますね！」
「ありがとうございます、マリア様。」

（ふふ、嘘は言ってはいない。これ程歌いたいという事、それに修道者ならば聖歌などできっと綺麗な声でしょう。
　そこで目を引ければ、我がキーン商会の名も大きく広まるであろう。
　新王には感謝しないといけませんね、くっくっく。）

————————————————

そして今に至る。

子供達には作ったキーン商会の名前の入ったTシャツを着させ、他の商工会の手伝いをさせている。
私もいつもの修道服を脱ぎ、そのTシャツとジャージを履き準備に勤しんでいた。

「フリードリヒ、遊んでないで準備を手伝ってよ！もー！」
「ちょっとクルトも遊んでないでこっち手伝ってよ！！」

こういう時、年長のリーズルやルイーザは本当に頼りになる。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


慌ただしい準備の話はさておき、当日がやってきた。


「はぁ、どうにか間に合いましたね。」
「さて、焼きそばだ！焼きそばなんだ！！！！！！！焼きそばが俺を呼んでいる！！！！！！！！！！」

リヴァランはすごい勢いで焼きそばに憑りつかれていた。
毎年恒例の『シヤンハイル焼きそば』にはそれほどの魅力があるのだから仕方がない。
まぁ、リヴァランの事は放っておいて私は・・・。

「まだ少し時間はありますね。海の方に行ってみましょうか、確かヘリヤが行ってましたっけね。」



海の方へ行くと、ヘリヤがイカを頬張りながらビーチを歩いていた。
数人の男性に声をかけられるが、その度に「ブバフ！！！！！！！！！！！！！」という叫びが聞こえたがきっと気のせいだろう。

「・・・・・・さて、そろそろ時間でしょうか。」

私は見ない振りをしてのど自慢大会の会場に向かった。



会場には地元の人達がたくさん集まっていた。久しぶりのお祭りでみんなきっと楽しみにしていたのだろう。
のど自慢大会も始まっており、会場のピークは最高潮だった。

そしてのど自慢トリの私の番がやってきた。

「皆様、このお祭りを開けたことを神に感謝します。
　そしてキーンさんの助けがなければ恒例であるこのお祭りも開けなかった・・・。
　キーンさんには最大の感謝を。」

「それでは歌います。」


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「ふぅ。」

歌いきってすごく満足感に満たされていった。
皆も余韻に浸っているのか、静かにしているようだった。

「では、皆様、引き続きお祭りを楽しみましょうね。」

満足し私は会場を後にした。








———数時間後の会場

「ぐふっ・・・マリア様、これほどの音痴であったとは・・・。
　これはさすがに予想外すぎましたね・・・・・・はははは、ぐふっ。」

などと愚痴をこぼしキーンはゆっくりと目を覚ます。つまりマリアの歌を聞いて気絶していたのであった。

「ぐっ・・・しかし、これは気を付けねばなりませんね、げふっげふっ。」

次回からは耳栓を用意しよう、そう誓ったキーンだった。





☆☆☆スペシャルサンクス☆☆☆
ENo.1481　ナンテ＝リオルグランテ＝キーンさんをお借りしました。

聞きようによってはだいぶ失礼なことを言い出した。

ふと、考えるように眉を寄せた。

その言葉にも、ライオンにも馴染みがあまりないらしく、感心したように齧り聞きの知識で答え

もちろん誉めている。それから少し言葉を濁し

ひとしきりきゃーきゃー喚くとふっと落ち着いてから微笑み返しました。

水辺を歩いていると、銀色の髪の女性に会う。

そういうと右手を差し出し、笑顔を見せるのであった。

背負った薙刀を引き出し、構える