水着、と言う衣装は故郷の村では存在しませんでした。
当然、わたしもお嬢様も着るのは初めてである。
そうとなれば、着付けのお手伝いと言うのも久々に腕が鳴るのでした。

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失礼します、と小さく断りを入れ、手の届きにくい背中側にそっと手を伸ばし。
うなじの紐をしっかりと結わう。

ダンスのように片手をつなぎ、そこを支点にお嬢様を回して着衣の具合を確認。
緩んだり隙間の空いている所は無し、胸元もちゃんと寄せて綺麗に谷間ができている。
ちょっときつめに横紐を締めて、持ち上げるように包み込むのがコツと聞きましたがこれでよさそうか。
うん。
うん。

つい太陽に向かって吠えたくなるものの、それはぐっと飲み込んで。
下着のような装いではあるものの、元より浮世離れした雰囲気と、裏表のない満面の笑みが相まって、性的な要素とは程遠い。
むしろ水着の色合いと相まって、夏の花のような華やかさと爽やかさを感じさせる姿だ。
私でなくても目を惹くのも致し方ないかと。

16歳という年齢を考えると、本当はもうちょっと色気を出さないといけないのかもですけど。
元より人間ほどに生き急がない種族だけに、今は今を慈しむのもまた良し。
差し出した人差し指を、紅葉のような手で握っていた子が、今では私より成長しているというのを見るのはなんとも感慨深い。


そんなことを考えつつ出来ました、と太鼓判を押せば、ありがとうカレンっと待ちきれない様子を伺わせる弾んだ声。
初めての海、初めての服と言うことでとても楽しみにしている様子。
流石にこんな状況でお預けをさせておくのも心苦しい。

軽く背を押して、着替えてから行くので先に他のメンバーと合流しててください、と微笑みかける。
それに短い付き合いではあるが、今の同行者たちもそれほど悪くはない、と思えてきた。
胡散臭い部分は依然あるが、少なくとも過去を詮索しなければ、筋は通すし遊び心もある。
まさか全員これもいい機会だとばかりに海に来るとは思わなかった。

それとも、これもメンバー同士の意外な一面を見せて、親睦を深めるために丁度いい、と言うことなのでしょうか？
そうだとしたら、目論見通りなのかもしれません。
少なくとも、少しの間ならお嬢様を任せてもいいくらいの信用は育まれているのですから。



とてもいい笑顔と共に頷き返し、更衣室より出て行くお嬢様を見送って……さてどうしましょうか。
可愛いお嬢様が見たいがために勢いで話を進めてしまいました、が。
改めて冷静になってみると、自分が水着を着るとなるとちょっと恥ずかしい。
自分用にと用意した水着を、傍らの棺桶より取り出して、改めてまじまじと見る。

デザイン的には、お嬢様と同じような胸元と腰回りを覆うタイプのもの。
やはり同じく尻尾があるので、下……ボトム？はそれを避けるように平べったい形状をしている。
色は薄い青に、白いフリルといくつかリボンのついたのが可愛い、かと思って買ったのですけど……いざ着るぞ、となると少し尻込みしてしまいます。
部屋着も似たようなものではあるのですが、それはお嬢様以外に見せるものではないですし。
かといって、けし掛けた側の私が今更やっぱり恥ずかしいからやめます、という訳にもいきませんし。
ううん。

いや、よく考えろ私。
周りも全部水着を着ている中なら、むしろ暑苦しい黒服を着ている方がよっぽど目立つのは間違いない。
木を隠すのなら森の中、水着を隠すなら水着の中！
こんなことをしている間に、可愛いお嬢様がナンパされているかもしれないぞ！

そんな被害妄想で自分を盛り立てて、えいやっとワンピースを脱ぎ捨てた。

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SummerVacation参加中。
着替え後はプロフ絵参照です。
葛藤をしつつも、実際に着替えてしまえば浮き輪にアイスにと遊ぶ気満点のように見えるのは気のせいです。