シヤンハイルの町の祭りは夜まで続き、多くの人達が出し物などで楽しんでいた。
最後には祭りの締めとして、商会達の作った花火をあげるのであった。

イブリスでは毎年、子供達の成長を見るため、子供達だけで夜を過ごさせる習慣があるので、町の宿舎を借りそこで一夜を過ごさせた。
ただ、グレーテルだけはまだ幼いという事もあったので、連れて帰ることにした。

「それでは町長、子供達の事はよろしくお願いしますね」
「ええ、こちらこそ、こんなに大きなお祭りにできたこと
　シスターマリアには感謝しています。」

町長に挨拶し、グレーテルを連れ、孤児院へ戻った。




子供達のいない孤児院はとても静かだった。
いつもは騒がしいくらいなのに、今日だけはその喧騒がよかったのだと思うくらい。

私はグレーテルをお風呂にいれ、花火の時間まで外のベンチに座り待つことにした。


「グレーテル、今日は一人だけど、寝るとき怖くはないですか？」
「シスターマリアがいるから・・・大丈夫・・・。」
「そう、来年は皆と一緒に寝泊まりしましょうね。」

コクッと小さく頷くグレーテルを優しく撫でていると、シヤンハイルの町の方から光が昇って行った。

ひゅー

ドーンッ！　


ひゅー

ドンッ！
ドーンッ！



静かだった真っ黒なキャンバスが花火によって色鮮やかに描かれていった。

「シスターマリア、きれい、きれいだよ。」
「ええ、ほんと、綺麗ですね。」

いつも無口で大人しいグレーテルも今日だけは花火ではしゃいでいる。

毎年その景色を見ているのだけども、今日は何故かとても懐かしい気持ちになった。


幼い頃、同い年くらいの男の子と一緒にこうやって花火を見ていた時の記憶。



「——くん！みてみて、すごくきれいだよ！」

「どーん！・・・って！」

「ね、また来年も一緒に見ようね！」



あの子の名前、なんて言ったっけ・・・。
来年も見ようね、なんて約束して、それっきり会えなくなってしまったのだっけ。
懐かしいな・・・。

などと懐かしい思い出に浸っていると、花火も終わり、グレーテルがうとうとしていた。
私はグレーテルを抱きかかえ、部屋に連れて寝かしつけた。



















一方そのころ
※ヘリヤ日記参照

3人の男達が宙吊りにされていた。

「俺達このまま死ぬのかな・・・。」
「バカっ！諦めんな！！！」
「でもさ、もうそろそろ頭に血が上って・・・。」


フリードリヒとクルトが死を覚悟している所にリヴァランがおもむろに口を開く。

「そういえばお前達、あのイブリス七不思議の話だが・・・。」
「おいちょ、なんでお前そんな冷静なんだよ、ってかなんで今更そんな話なんだよ！！！？」

「あれには続きがあってな・・・最近噂になっている８つ目があるらしい。
　８つ目の噂はこう綴られている。」

「シスターマリアは実は凄い。」


フリードリヒとクルトの目つきが変わった。

「ど、どういうことだってばよ兄貴・・・。」

「団長と呼べ！！！！！」

「まあいい、まずはいつものマリアを思い出してもらいたい。
　そして珍しくいつもの服じゃなかった今日の昼のマリアを思い出すんだ。あのダサいTシャツの事だ。」





「・・・。」
「兄貴・・・まさか。」

「だから団長と呼べ！！！」
「・・・ああ、そのまさかだ。」


2人は合わせて息をのむ・
「凄い・・・大物だ・・・。」
「ああ・・・。」


しかしリヴァランは難しい表情を浮かべたままだった。
「だが、こいつが七不思議の何故8つ目として噂されているのか、それが問題だ。」

「？？」

「マリアが来てからもう9年近くになる。
　毎年9年間ここの祭りに来ているが、水着姿を見た事がないだろう。」

「・・・ない。」

「もちろん、今日を除いてあの修道衣以外を着ているところをみたことがあるか？」

「・・・・・・ない。」

「そしてさらに、ヘリヤ達と一緒に風呂に入る姿を見た事があるか？」

「・・・・・・ない！！」

「そういうことだ。」

「なんてこった・・・。お宝がこんな間近にあったというのに気づきもしなかったなんて・・・。」
「しかもそれを手に入れる事すらも・・・！」

「お前らの覚悟、もう一度確認したい。」






















「・・・ふっ、お前らときたら。」

そう言うと、靴に忍び込ませていたナイフを取り出し、縄を切る。
吊るされていた状態から華麗に着地し、同様にしてフリードリヒ、クルトの縄も切る。

「だが、お前らと一緒ならこの謎を突き止められるかもしれんな。」
　この謎は解かねばならない。」



「いくぞ！！！！！」

「おー！！！！！！！！」




夜の町に3人の雄叫びが木霊し、一致団結した3人は孤児院へ向かった。




夜中の孤児院はとても静かだった。

幼いグレーテルはまだ幼いという事でマリアが連れて行ったが、他の子供達は皆宿舎にいる。
つまり孤児院にはグレーテルとマリアしかいない。
まさに一度きりの絶好のチャンスだ。

イブリス孤児院の風呂場の裏の窓口に3人は集まる。
声を潜めながら、気分はさながらメタルギ○ソリッドである。


「いいかお前ら、恐らくマリアは子供を寝かしつけたあとの夜中に風呂に入っているはずだ。だから俺たちは知らなかった。
　時刻は、ふたふたまるまる、もうすぐグレーテルを寝かせ、そこから少し時間を置いてから風呂に入るはずだ。」

「つまり兄貴、ここで待ち伏せていればいいってわけッスね！」

「あまり大きな声を出すな！まぁ、そういうことだ。」


———チックチックチック


23時、24時と時間が進んでいく。

そして1時・・・。


———ガラッ



キタッ！！！！！




風呂場に人影が写る。しかしまだ湯煙ではっきりとは見えない。

もう少し、あと少し、あと一歩。

徐々に近づいてきて、その姿が鮮明になってくる。


———ゴクッ

3人は揃って息を呑んだ。



そして・・・






———ガタンッ！！！！





突如足場にしていた台が壊れ、3人は一斉に倒れこんでしまった。


「ふぁっくしっ！！もう少しだったのに！！」

「・・・へー、なにが？？」

「シスターマリアの謎、俺達のロマンまでだ！！」

「・・・・・・ロマン？」

「ああ、イブリス七不思議の幻の8つ目、シスターマリアは実はすごい！」

「そうね、マリア様はすごいよねー。」

「ああ、ってお前知っているのか？」

「マリア様は、わたしが憧れているすごい人よ。」

「いや、そうじゃなくって！！・・・・・・って、ん？マリア様・・・？」


怒り狂っていた3人が異変に気づく。

1つ、足場にしていた台が何かに斬られたように壊れていること。
2つ、シスターマリアの事をマリア様と呼んでいる事。
3つ、俺達は誰と話しているんだ？



恐る恐る声のする方へ振り向くとそこには、刀を抜いたノエミが立っていた。


「そろそろ反省しただろうと思って、解放してあげようと思ったら、もぬけの殻」

「ありがとう優しいノエミさん。」

「胸騒ぎがしてこっちの様子を見に来たら、懲りずに覗いてる不届き者が3人」

「はい。」

「これは反省してないみたいね？」

「まて、ノエミ、いえ、ノエミ様、これには深い事情ｇ」

「反省してないどころか、言い訳までいうんだ？ふーん」

「はい、ごめんなさい。」

「これはちょーーーーーーーーっときついお仕置きが必要かな？」

「おいちょ、ま、さすがの俺でも丸腰じゃ・・・。」

「モッツァレラ☆」

「ちょ、どういういｍ」











「えっ！？な、なんでしょう、こんな夜更けに・・・狼か何かの遠吠えでしょうか？
　ふぅ、でも毎年恒例とはいえ、子供達だけにするのは心配ですね、何事もないといいですけど。」






翌朝、グレーテルを連れ子供達を迎えに町までいくと、リヴァラン、フリードリヒ、クルトの姿が見えなかった。
気になってノエミに聞くと・・・。

「還ったよ」

とだけ答えた。

少し言葉に違和感を感じたが、どこかですれ違いになったみたいなので、
気にせず町長など感謝を告げ、子供達と孤児院へ帰ることした。

帰り道、子供達だけの生活はどうだったかなどを話していたら、
あの3人は覗きをしたとリーズル達から聞いたので少しお説教をしなければ・・・。



孤児院へ着き、日課である礼拝を行おうとしたら、礼拝堂の十字架が3つ増えている。
目を凝らしてみてみると、リヴァラン、フリードリヒ、クルトだった。


「ね？マリア様、還ってたでしょ？」


ノエミは笑顔になってそう言うので、全てを察した。

私はこの3つの十字架に誓った。ノエミは怒らせてはいけないと・・・。

ようやく事情を理解してもらえたようなので、少しホッとしている。

こう見えても一応、本人も悩んではいるらしい。

　

人は助け合い、支え合って生きるもの　という行りを聞くと、やや難しい顔を浮かべたものの……

あるわけがない、と無邪気に笑って。

興味津々といった具合で銃を見つめる。

少々疑問げに問う。
そして孤児院のことについて問われると、まるで紡ぐ言葉を選ぶかのようにぎこちなく身体を動かしてみせ。

少年は一息つくと、どこか遠くを眺めるように目線を眼前の女性から外し。

相手に聞き取れるか微妙な大きさの声でポツリと呟いた。