昔々、あるところに、自分の姿を持たない怪物がいました。
形の無いどろどろと溶ける身体に、夜空のような黒い色。
怪物は、自分の姿が欲しくて欲しくて仕方がありませんでした。
そこで怪物は、自分の生まれた南の果ての氷の海を出て、自分の姿を探しに行くことにしました。


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怪物が初めて出会ったのは、ボロボロの服を着た旅人でした。

『こんにちは、旅人さん。私にあなたの姿をください。』

『ダメだよ、同じ顔が二人もいたら、怪しまれて街に入れてもらえないじゃないか。』

『それなら、私があなたになります。』


バリバリ　グシャグシャ　バキバキ　ゴクン。
こうして怪物は、旅人となりました。
初めて人間の姿を得て、怪物は大喜び。

『見て、見て、私を見て。』

『私は人間になることができたよ。』


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次に怪物が出会ったのは、人間の街の城壁に詰めていた兵士でした。

『こんにちは、兵隊さん。私を街に入れてください。』

『ダメだよ、余所者は入れられないんだ。』

兵士は、夜空のような真っ黒な服の旅人を訝しみます。

『それなら、私があなたになります。』


バリバリ　グシャグシャ　バキバキ　ゴクン。
こうして旅人は、兵士となりました。
これで街に入ることができると、怪物は大喜び。

『見て、見て、私を見て。』

『これで私は余所者じゃないよ。』


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次に怪物が出会ったのは、家紋を塗り潰した黒騎士でした。

『貴様はこの街の兵ではないな、おかしな色の怪しい奴め。』

黒騎士は、夜空のような真っ黒の鎧の兵士を訝しみます。

『けれど、あなたの鎧も私と同じ色ではありませんか。』

『同じなものか、君主は居なくとも騎士は騎士、たかが兵士風情と一緒にしないでもらおう。』

『それなら、私があなたになります。』


バリバリ　グシャグシャ　バキバキ　ゴクン。
こうして兵士は、黒騎士となりました。
これで黒い鎧でもおかしくないと、怪物は大喜び。

『見て、見て、私を見て。』

『これで黒い姿も怪しくないよ。』


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次に怪物が出会ったのは、鮮やかなドレスを纏った娘でした。

『こんにちは、お嬢さん。素敵な色の服ですね。』

『ありがとう。でも、騎士様の鎧も黒々として素敵ですわ。』

『けれど私は、あなたの色の服が欲しいのです。』

そう言うと、娘はクスクスと笑います。

『おかしな人、男の人はドレスなんて着ないわ。』

『それなら、私があなたになります。』


バリバリ　グシャグシャ　バキバキ　ゴクン。
こうして黒騎士は、娘となりました。
これで綺麗なドレスを着られると、怪物は大喜び。

『見て、見て、私を見て。』

『こんなに綺麗な色になったよ。』


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けれど、怪物の着たドレスはあっという間に夜空の色に染まってしまいます。
次々にドレスを着替えていきますが、みんな真っ黒に染まってしまいました。

『無い、無い。色が無い。』

『どうして私には色が無いの？』


なんだかとても悲しくなって、怪物はとうとう泣き出してしまいました。
星色夜空の黒いドレス、こんなに素敵な色なのに。