わたしはシルウィア。いつものように朝目覚めると、脚が人間のものと同じ形をしていました。

自分の足を見て、ああ、今日はまだ夢の中なんだな、早く起きなくちゃとまず思いました。それは何度も夢に見た光景だったからです。おぞましい化け物の脚を持つわたしにとって、人間のような脚は何よりも憧れでした。脚を触ってみて、せいいっぱい儚いであろう夢を楽しんでいたのですが、何分たっても夢が覚めることはありませんでした。そもそも、それは夢の中ではなかったのです。自分の太ももからふくらはぎ、指の先までつねってみると、間違いなく痛みがあり、やっと夢ではないことがはっきりわかりました。なんということでしょう。あれほどまで夢に見た人間の脚が、こんなあっさりと手に入ってしまうとは。

しかし、特別に何かしたような覚えもわたしにはありませんでした。というよりも、人間の脚を手に入れるために考えうるできることは何でもやっていたので、いったいどれが効果があったのかわかりませんでした。毎日水浴びの際に水神様に祈ったおかげかもしれませんし、いつも使っている枕の中に人間の脚の絵を入れていたおかげかもしれませんし、みんなに隠れて美脚体操をしていたおかげかもしれません。もしくは、昨日研究棟をみんなで探索していたときに見つけた「人間エナジー」なる炭酸飲料が効果があったのかもしれません。あまりに美味しかったので、5瓶ほど飲みほしてしまったのも今思えば効果てきめんだったのかもしれません。

なにはともあれ、人間の脚を手に入れたわたしは、その脚ですぐにみんなを起こしてまわりました。

「みなさん、みてください！朝起きたらほら！こんなに素敵な脚が生えてました！」

わたしがスカートをたくし上げると、みな目を点にして驚いていました。

「やったねシルウィア！願いが叶ったんだね！」
「あらまあ、綺麗な素足ですね」
「おー。ボクの足の次ぐらいにすべすべかな」
「しかしいったいどうして・・・」
「下着、用意しないとね」
「ちょっと触ってもいいかしら」

いいですよ、と答えると、クレーさんはいつもの鋭いような眠たそうな目つきで脚をとらえながら、ぺたぺたとわたしの脚を触るのでした。クレーさんの手がわたしの脚に触れていると、自分で触るのとは違って、とてもくすぐったく、ああ、やっぱり人間の脚をもっているのだと改めて実感しました。

「ねえシルウィア、エンブリオとしての力はつかえる？」

クレーさんに尋ねられて、やっと、わたしは昨日まで何の気もなしに持っていたはずの自分の水の力を、持ち合わせていないことに気が付きました。

これも、夢ではありませんでした。

研究者のクレーさんに分かりやすいように、表現を変えてそう説明します。

クレーさんの発言にこくこくと頷いて。