「先生こっちこっち」
　クリシュナは嬉しそうに笑って軽やかに、背中に羽が生えているような足取りで走った。

「先生、急ごう日が暮れる」
「ありがとう、ガルフくん」
「いいよ、さあ」
　照れ隠しに横を向いた”少年”にネルは微笑みかけた。

こんな風に森の中を歩くのはいつ以来だろう。
300年くらいぶり、かな。そんなことを思う。
この森は元気だ。彼ら、彼女らのように。

「ここだよ先生」
「ここが私たちの秘密の場所」

ネルは少年と少女に手を引かれて、やっと岩場を登った。
そこには朽ちた巨木があった。

世界樹の、その死骸。
大きくなれなかったんだね。
水を吸い上げられずなかったんだ。
だから、ここ一帯の森が砂漠に戻っていく。

朽ちた巨木に触れて涙を流した。

「……で、さ。その木から、こいつ生まれたんだって」
「え？」
「あ、その話秘密だって……！」
「先生にならいいだろ、別に。なあ先生」
「その話、本当なの？」
「うん、そいつがこの森を作ったんだ。水を探り当てた。すごいよな」
「この木から生まれた？」
「……って、そいつがいってた」
「本当なのクリシュナちゃん」
「うん、なんかそんな気がするの。私はここで生まれたって」

世界樹がこの子を産んだのだろうか？
おとぎ話のような、もしかしたらそんなことがあるのかもしれない。
そうあるべきというものがあるのなら、形を変えて遺伝することだって。

それはどんな奇跡だろう。
ぎゅうっと先生は二人を抱きしめた。

「ちょ、先生？」
「おっきぃ……」

三つの鼓動が脈打つ。
生き物はなぜ世代を重ねるのか。
私の胸はなぜこんなにも高鳴っているのか。

その答えが見つけられそうな気がした。

まだらはコソコソとネイベールに耳打ちしている。

他の同行者と会話を交わせど、しかし、ネイに対しては一瞥もなく——

>>クリシュナ

イシュメールは銛を構え、敵の動きを目と気配で追った。

イシュメールはうずくまったサスカッチの頭部にネクターの花弁を押し付けた…

銛を手に身構えると周囲に目を配りつつ意識を集中する…