猛暑と呼べる暑さも過ぎ去り、幾分かは涼しくなってきた気がする。
　だが、それで過ごしやすくなったかと思えば、そんなことは無かった。
　日中は暑いが朝晩は気温がぐんと下がり、より一層体調管理に気を使わねばならない。フォルカー自身はさほど注意は必要ないが、クローシェに対しては別だ。

「……そろそろ、薄手の上着が欲しいところだな」
　──と、思わず考えていた事を口にだしていたようだ。フォルカーは自分の声と、こちらを振り返って見上げる愛娘の顔を見てそれに気付いた。
「うわぎ？」
「うん、クローシェのだ。そろそろ夜も冷えてくる頃だし、朝も寒くなるだろうからな」
「お父さんが作ってくれるの？」
「本当はそうしたいんだが……」
　喜色を浮かべるクローシェに目を落とし、フォルカーは苦笑しながら首を横に振る。次に周りの景色を眺め、明かりが照らす限り一面の石壁を見渡して溜息を吐いた。
「今回は駄目だな、場所が悪い。ここを引き返したところで、どのみち落ち着いて腰を据えるような場所が無さそうだ」
　何を言いたいのか悟ってくれたクローシェの髪を撫でながら、フォルカーは自分にも言い聞かせるように言葉を続けた。
「そうだな、去年着ていたやつならクーちゃんが持っているだろう。寒くなったら出して貰おう」
　もぞり、と背中を預けていたモノが僅かに動くが、声は無い。

　フォルカーはクローシェの髪を撫でていない方の手を挙げ、後ろで動いたましろの獣を軽く撫でた。