【捌：伊吹の龍の娘】

伊吹山から手紙が届いた。
先日も親父殿から、異界渡りの妖怪を通じて水着が送られてきたので、ちょっと嫌な予感がしたのだけれど、今回は差出怪が違うみたいだ。

「伊吹龍ゑ……たつえちゃん？」

伊吹龍ゑ。
我が叔父上殿にして、かつては父の、今は私の片腕。伊吹の龍たる妖怪──
その、一人娘。
つまるところ、わたしの従姉妹にあたる。

龍ゑちゃんと私は、昔はとても仲が良かった。
10歳になるまでは、いつも一緒に居て、いろんなことをして遊んでまわっていたのを覚えている。
龍ゑちゃんは物静かで、おしとやかな子だったけれど、そこはやはり龍鬼の妖怪。
伊吹山の端から端まで、私と共に走り回っていたくらいに、運動は得意だった。

だから、きっとそれも早かったんだろう。
12になる頃に、龍ゑちゃんは叔父上殿の仕事を手伝うようになった。
その頃から、私も親父殿についてまわる事も多くなっていたから、互いに段々と疎遠になっていった。
年に１回、一家の総会合でたまに顔を合わせるくらいだ。

今は、龍ゑちゃんは叔父上殿の元で潜入任務を主に行っていると聞いていた。
敵対勢力たる妖怪たちの調査。危険な任務だ。

そんな彼女から、私へ。
何の手紙だろうか。

三つ折にされた手紙を開く。
書かれていたのは、簡素な一文だった。

『私の化身を送ります。お嬢様のお役に立つ事を願っております』

と、ただそれだけ。

「化身……」

表現された言葉に、覚えはある。自分の分身を作り出す妖術だ。
伊吹の鬼に、そういう術が得意な鬼がかつて居り、その鬼が残した妖術だと聞いている。
かなり高等な術なので、伊吹の鬼とは言えど並の鬼には使えない。ちなみに私は使えるけど。

「ということは、媒介があるよね」

手紙を裏返す。思っていたものは、そこにあった。媒介──オニガタ。
鬼の形に切り取った、白い紙。にじみ出る妖気は、龍ゑちゃんのものだ。

─────

「さて」

ミニドラゴン。竜のエンブリオ。
龍ゑちゃんの化身を試すなら、この子が一番適当だろう。

今回は、私の妖力は使わない。ラクでいいことだ。

「さ、これを額に貼ってっと……」

ぺちり、とミニドラゴンの額にオニガタを貼る。
数秒後に、子竜は闇に包まれ──

「……伊吹龍ゑ、参上しました。お嬢様」

龍ゑちゃんが、現れた。

数秒、八葉を見つめる。思い出しているのだろう。

ハンチングを脱ぎ、ゆったりと御辞儀をして、微笑んだ。

本人もよくわかってないようだ。初めて降ったのかもしれない。

徐々に降り積もる白いモノは、冷たくなっていき、いつしか雪となっていた。

　　クン・フウを褒められて嬉しいのか、尻尾を全力で振りながら照れている

　　目をキラキラさせながら力説する

ぢーっと視線を向ける金狐。しっぽをぱたぱたして、興味津々だ…！

髪を飾る簪に手をやり、スッと抜いていく。