ランプの灯火だけが辺りを照らす、暗い室内。
ランプが置かれているのは古びた、しかしよく磨かれた木製のカウンターだ。
木製の椅子に座った男が、カウンターに肘をついてにやついている。
男の背後の壁に備え付けられた幾つもの棚には、数々の武具が使い手を待ち構えるかの様に鎮座している。
どうやら、この一室は武器屋のようだった。それも、幅広い武具を扱っている店のようだ。
剣や盾から、おそらくは世界渡りをしてきた者から買い取ったであろう手榴弾、果てはロケットランチャーまで様々なものがそこにはあった。

男は中肉中背、特に取り立てることも無い風体だったが、彼の目の前に立っている人影は、明らかに異質なものだった。
目深まで被ったフードでその表情は窺えなかったが、男から見ても十二分に不審な者だった。
目の前に立っているだけで寒気のする、そんな気配。
例えるならば、この世を彷徨う幽鬼か、はたまた死神か。
そのローブを羽織った人影は、僅かな音も立てずただ男の前で、何かを待つように立っていた。
店内はただただ静寂に包まれていた。ドアの隙間から入ってきた羽虫が飛び回る音以外は、部屋には存在していなかった。
その静寂を破るかの様に、男が口を開く。

「お客さん、表の看板見えなかったの？　クローズド、つまりは閉店だよ、閉店！　あんだけ大きい看板なんだ、それぐらい分かって欲しかった所だがね！」
正直な所、男としてはこの人影が客なのかも怪しいところであったが。
男はため息をついた後、大げさな手振りで目前の幽鬼を追い払うかの様にまくし立てた。

「……武器が要る」
それに対し、幽鬼はぼそり、と口を開く。
その言葉を聞き、男は心の奥底で安堵の息を漏らし、同時に先程以上に高圧的な口調でフードの人影に声をあげる。
「だからね、お客さん？　今日はもう閉店なの！　分かる？　だか、ら……」
そこで、男の次の言葉は潰えて消えた。
カウンターに無造作に投げ捨てられた、紙幣の山。それを見た途端男は目を丸くし、語を詰まらせたのだ。
「……よろこんで。どんな武器がご入用だい？」
すっかり溜飲の下がった男は、普段客に見せつけている商売用の笑みを浮かべた。
それを聞いてか聞かずか、ローブの人影はゆっくりと棚に近づき、鈍い銀の輝きを放つ、小さな筒状の物を片手に取る。
まるでその物体を見透かすかの様に、多方の角度からそれを凝視するローブの人影。

「そいつは回転式拳銃——所謂リボルバー、だな。なかなかお目にかかることは無い代物だがね。そこに書いてある１８８０ってのは、そいつが製造された年なんだとさ。年代物らしい」
「弾を撃ちだす精度はばっちしだ。間違いねぇ。狙った所にズドン、頼れる相棒になるだろうぜ。弾はそこに一緒に置いてある。そいつの弾を込めるには——」
商売語りでつらつらと自慢の商品の説明を続けようとする男の声は、ローブの人影の手の内から発せられた装填音に遮られた。
「なんだい、あんた、使ったことあんのか……？」
「……いや——」
そのままローブの幽鬼は片手に銃を持ち、男の方へとその銃口を向けた。
「——触るのは、これが初めてだ」
耳をつんざくような発砲音と男の悲鳴。
同時に閃く、薄暗闇を突き破るマズルフラッシュ。
数瞬の沈黙の後。
「成程、悪くはない」
そう呟くとローブの人影はゆっくりと銃を降ろし、棚に置かれていたリボルバーの弾薬箱を引っ掴むと、おもむろに歩き出す。
幽鬼の背後で、膝から崩れ落ちる男。その目に映るのは、目の前で撃ち落とされた一匹の羽虫だ。
「……あんた、一体？」
震えて詰まる音を何とか押し出したような声で、男はフードのそれに問うた。
「語る必要はない。私も、お前も」
男はただ、頷くことしか出来なかった。リボルバーを手にしたローブのそれに、新たに言葉を投げかける気力も、そこから立ち上がり何かしらの行動を起こそうとするだけの判断力も、男には残ってなどいなかったのだ。



肌を裂く寒風の吹き抜ける、荒涼たる砂の海。
ローブの幽鬼がゆらりと扉から出てきたその店は、そんな砂漠の波中に潜むかの様に、ぽつんと佇んでいた。
一歩外に出れば其処には動く影一つ無く、静寂の中に風が砂を攫う音だけが微かに聞こえるのみ。
その砂漠の何処を見回したとて、目に映るのは底なしに広がる虚ろな空間だけだ。
そんな中、唯一虚無を照らしだす、月の光。
「……必ず、見つけ出す」
その声に応えるかの様に、銀のリボルバーは鈍く光り続けるのだった。

そういって、フィリアスは胸を張っている。

蠍は、腰から伸びる鎖をジャラジャラと音を立て、エレネへ見せた。
先端には巨大な斧がついており、これ！と言わんばかりに左右へ振っている。

ハルは遠慮するような様子を見せずにずけずけと言ってのける。

2人の関係を問われると、ハルとトガノは一度互いの顔を見合わせた。

ハルがトガノの方をチラリと見ながら言う。
小声ではあるが、恐らくエレネスティナの耳が良ければ丸聞こえだろう。

声のする方を見てみると、ふと、金色の狐が二尾を揺らしながら、ちょっと困っている様子。

狐耳をぴこーんと立たせて、興味津々に見てくる。