＊書いてる本人がプロットを引っ張り出さないと詳細を思い出せなかった謎の文章。読む必要が無い。

『怒り』
　ロギとヒサメ（体制側を支持する妖精隷姫。アルファントと契約している）。アルファント（体制側の一人）とスズメドラゴン。その二つの試合を公正にすべく見守る、妖精剣王姫カネ、妖精剣王姫アカネ（ヒサメの姉）、妖精剣王姫候補筆頭ハズサ。
　この試合を監督するカネは一揆側を補佐する妖精隷姫を統率。アカネは体制側を支持する妖精隷姫を統率している。ハズサは候補止まりのため、スズメドラゴンの配下という格好だったがロギの要望により試合に加わっていない。
　スズメドラゴンとアルファントの試合は乱戦という格好で始まった。氷の魔弾を撃ち尽くすと雷の散弾、アルファントは手札が豊富のようだった。スズメドラゴンは炎を纏い突進し、かわされたところを炎の魔弾で追い討ちしていた。互いに一撃でも当たれば決定打の威力で試合が流れている。
　一方のロギとヒサメはまだ剣を抜いてすらいなかった。いや、飛翔すらしていない。
　重苦しい空気が一巡して、契約者同士の決戦は難しいと二人が判断したのは同時だった。契約者の二人が、ＰＳＰでの魔力回復を見込んで攻撃を交わすようになったからだ。
　ヒサメが双剣を引き抜くと、ロギが大剣の柄に手をかけた。ヒサメはあっさりとその双剣を捨てる。空中から降ってくる大剣。真紅色の大剣をヒサメが構えた。ロギはそれに呼応するように大剣を引き抜く。
　ヒサメが大剣を降らせた瞬間、広域知覚能力に優れたカネとアカネは理解する。狸が二人いるらしい、と。ヒサメは大剣を握れるのだ。それは、妖精剣王姫の資格をいまだ備えていることに他ならない。同時、その大仰な仕掛けの最中にロギが大剣の鞘の裏に隠した薄っぺらい片手剣を引き抜いていたのを、監督役の二人は見逃さなかった。
　ロギが大剣を構えつつ空中へ飛び上がる。ヒサメとの距離が半分になったところで、ロギが大仰に大剣の構えに入った。その構えの裏で、薄い片手剣を知覚し辛く魔法をかける。元々魔法契約のドールだったのだ、今でこそ物理攻撃に比重を置く頑強なガーゴイルだが、索敵を晦ます魔法なら十八番も十八番。
　ロギが大きく大剣を構えた瞬間、ヒサメが『見真似』を解く。外見はアカネを少し華奢にしたような感じであったが、存在の圧力はアカネに見劣りしない。ヒサメが地面を蹴った。その仕草が伝えているのは、偽計に掛かったのはロギであるとあざ笑うように。ヒサメは病弱でも、妖精剣王姫の資格が無いわけでもない。単純に、情報を隠ぺいしていたのだ。
「こちらもロギ様やハズサ様の情報は受けておりませんよ」
　ぼんやりとした所作でアカネが告げる。これは、公平であり公正な偽計だった。
「こちらにも異存はない」
　カネもその共謀を公平と認めた。
　ロギが突っ込んでくるヒサメを知覚して生唾を飲む。次の瞬間には、距離は半分に縮まっていた。ロギが歯を打ち鳴らしてハズサを見る。試合形式上、ハズサは今からでも試合に加わる権利を持っていた。ただ、それを認めれていればアルファントが他に使役する多種多様なエンブリオも乱入することを認めることになっていただろうが。ハズサにできるのは一つだけである。あとわずかに迫る凶猛なその大剣の位置を教えることだけだ。視線をロギにくれてやる。ロギはそれを受けて、その確信めいた眼光を正面から受け止めて、ヒサメを目を捉えるのを諦めた。ロギはハズサの視線を信じた。それを決めた瞬間、ヒサメの両腕が舞った。ロギは大剣でヒサメの大剣を受け止めず、先を制してヒサメの腕を隠し持った片手剣で削ぎ落としたのだ。
　監督役ではなく、妖精剣王姫として、大剣を持った者には矜持がある。魔法など無くとも勝てることだ。純粋な物理戦闘能力だけで他の追随を許さない。それが妖精剣王姫だった。だからカネの判断は速かった。ロギの胴を全て大剣で薙いだ。一振りであった。
　
『結論』
　ロギが目覚めると、ハズサがスレイプニルから継承した羽根の治癒魔法でロギを治癒していた。知覚ではなく視覚でそれをもう一度捉えると、ハズサの羽根で包まれていて、胴は繋がっていた。
　ヒサメがアカネと無言のやり取りをしている。ヒサメがアカネに口を押えられていた。アカネは首を横に振る。ヒサメの腕は繋がっていない。
　カネがこちらをちらりと見て、それから別の方角を見た。その方角を見ると、アルンファントがスズメドラゴンを圧倒し始めていた。文官という話だったが、地力はスズメドラゴンよりやや優るらしい。試合はまだ続いている。
「腕を治してください。私はまだ、戦えます」
「公正な試合だ」
　やっと声の聞こえたヒサメに、アカネが答えた。
「だったら公正にこちらの治療も」
　ヒサメが二の句を継ぐ。
「今公正な結果にしてやる」
　カネは短くそう言うと、大剣の柄に手をかけた。同時に、アルファントが心臓を砕かれて死んでいた。
　カネの魔法は聞いたことがない。ロギが生まれるより前から、カネは妖精剣王姫だった。衝撃破か何かだろうか、とロギは思った。
「ヒサメ、ロギ両名の治癒を認めよ。広域布告。超域展開。戦闘妖精族は一揆側を全面支援する」
　戦闘妖精族にとっての戦略が、一変したことになる。昔身の回りの世話をしていたので、声で解った。今のが妖精女王だ。広域伝達の魔法が得意だったと記憶している。政治的なバランス感覚や、一族の経営の上手さから、妖精女王の地位を確立していた。
「アカネ」
　カネが一声かけた。
「治癒魔法はそれほど得意ではないけれどね。まぁ、今ここで治癒できるのが他にいないなら」
「待機はさせている」
「じゃあそっちで」
「うむ」
　遠方で待機していた妖精隷姫の治癒班が、ロギ、スズメドラゴン、ヒサメの治癒を始めた。
　カネが、スズメドラゴンに向き合う。スズメドラゴンが、佇まいを整えようとして転げた。疲弊しきっているらしい。
「生き永らえることを許す。よくここまで耐えたな」
「耐えた、とはなんぞ」
「あの癇癪玉をよく従えた」
「脅されてるだけチュン」
「まぁ、どうでもよいが、その辺は」
　ロギは何も失わなくていい現状に安心して、ハズサの懐でしばらく眠ることにした。

一歳そこらの仔ドラに人生を語られ、その到達点を尋ねられるとは思わなかった猫。

ぐりぐりと哲学的な事をのたまう雀ドラゴンを指先で突く青年である。
勿論、力加減はしているけれども。

どこか淋しげにつぶやいて。
青年はペチンと小さな竜の頭を叩くのであった。