「……王の居ない国？」

医師の言葉に、アイサは静かに訪ねた。
王の居ない国。医者は、確かに言った。

「あぁ、アムルイの嬢ちゃんがな……」

医者は面白そうに話す。
王の居ない国、民が回す国、皆でトップを選ぶ国。

ああ、そうか、と。
アムルイはその結論に至ったのか、と。

「……ふふ」

アイサは薄く笑った。
それを見た医師が問う。

「……子供の夢だと笑うかね？」
「いいえ〜、違いますよ〜」

別に、アムルイを愚かと笑ったのではない。
逆だ。
正しい。彼女は、どこまでも正しい。

王など、本当は統治に必要ないのだ。
集中した権力は、ある種の脆さを持ち合わせる。
すなわち、暴走と簒奪の危険だ。

王一人で歯止めのかからない政体だから、王が暴走すればこうして国が壊れる。
王一人で治める国だから、王に取ってかわれば簡単に国を奪える。

アムルイはそうした王政の脆さ、危うさを身で感じたのだろう。
同時に、この状況から、王が居なければ国が成り立たないという事を否定したのだろう。

トップを皆で選ぶ国——すなわち、共和制。
なるほど、王による国家の破壊を体験した今が、まさに変革の好機なのだろう。
全ての民が、王の危険性を悟った。
そして、あらたな王の候補も居ない。
今議会を開き共和制への移行を宣言するほどの力を結集すれば、それは現実のものとなるだろう。

（そう、おそらく可能。だから——）


（それだけは、この身に代えても阻止せねばなりません）


再びアイサは笑う。
計画を急がねばならない。
そう——

新たな王を、擁立するのだ

アイサの言葉に思わず声を詰まらせたが、少し考えて再び口を開く。

一瞬悔しそうな素振りを見せながら語る。
自身の力不足には思うところがあるようだった。

女神の園で会ったその男は占い小屋に度々訪れる農民だった。

そう言って男は離れる

あなたの背後から、いつのまにか霧状の少女がこちらを見つめている。