正義とは何か。
　幸せとは何か。
　その本質から、目を逸らしてはならない。
　さもなくば悪を糾弾することも、不幸を嘆くこともままならない。

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　王を不要とする国を目指す。
　それがアムルイの考えた、この一揆の終わらせ方だ。
　とはいえ、まだどこを目指すかが決まっただけだ。
　これから考えるべきことも、やるべきことも山とある。
　今はまだ、足元がやっと確かになっただけ。
　まずは歩き出すことから、始めなければいけない。

「——遠いなぁ……」

　ぽつりと洩らした呟きは、城下町の雑踏に呑まれて消えた。
　この街だけでも様々な人がいる。
　数え切れないほどの老若男女は言うに及ばず。
　強い者も、弱い者も、持つ者も、持たざる者も、足りている者も、足りない者も、
賢い者も、愚かな者も、勤勉な者も、不真面目な者も、正しい者も、悪しき者も、
誠実な者も、不誠実な者も、心ある者も、無情な者も、富める者も、貧しい者も、
進歩的な者も、保守的な者も、貞節な者も、不貞な者も、健やかな者も、病める者も、
人である者も、人でない者も——とにかく、たくさんの人々がいる。

　山から下りなければ、一生、知ることのなかった世界がここにある。
　見ようともしてこなかった営みが、ここにあるのだ。
　彼らに触れ、できることなら幸せになってもらいたいと、アムルイは思う。
　一揆を終わらせ、国の形を変えるのなら、より多くの人が幸せになるのは必須だ。
　昔の方が良かったと、感傷ではなく本心で言わせてはならない。
　しかしその目標は、理想と乖離してしまっているのが現実だ。

　より多くの——できるならば、全ての人を幸せにしたい。
　だが国を変えるという過程で、不幸になる人もいるだろう。
　生活がどうなっても、王国であることを望む人もいるだろう。
　それでも、より多くの人を幸せにしたいと望むならば。
　その目標のために理想を捨て、より少ない人々を不幸にしなければならない。
　被害を最小限に抑えることとは、似て非なる。
　どういった人々を不幸にするか、選別するようなものだ。

　故に目指す場所も、理想さえもが今は遠い。
　問いを重ね続け、答えを出した者の義務として、アムルイはその重さを背負う。
　終わりの先を見に行くと決めたのは、他ならぬ自分自身なのだから。

　だがこの時、アムルイはまだ理解していなかった。
　その行いが誰かへの問いかけになることも。
　様々な人がいるならば、終わらないことを望む者もいるということも。

　——答えを出しただけでは、点は取れない。
　

突如隣から感じた殺気にユメルは全身が総毛立つのを抑えられなかった。

鋭い目つきで舌なめずりし、腕をわきわきとさせている二人の少女。
それはまさに

戦いを終えたあなたの後ろに、いつの間にか霧のような少女が浮かんでいた。

少女は身体の一部が結合したり分離したりしながらその場を漂っている。
まるで霧に移された映像のようで、この場に本体がいる訳ではないらしい。

あなたからすれば、少女の大きな髪飾りが別な誰かの声を
発したかのようにしか聞こえなかっただろう。
しかしその誰かの言葉すら遮る勢いで霧の少女がずずいと近づく。

　　　△　　土　▲
　　（　㊤　皿　㊤）　　がしゃーん
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　／│　　塊　　│＼　　　　　　　　　がしゃーん
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