—女神の園—

スピラエラが危惧したナイトスピリットとグレンダの邂逅は予想外の結果に終わった。
戦闘後、逃げ出す他のエンブリオをよそに2人は何故か意気投合してしまったのだ。

思えば、初対面でロックに物怖じせず話しかけていたりと、度胸がある面はあるのかもしれない。

よく彼を見かけていたらしいガーベラが何か言おうとするも、ナイトスピリットがそれを遮るように話を続ける。

そして強引に話を終わらせる。
契約主が一言も話せないままの契約に何人かは怒りそうになったが、グレンダは落ち着いていた。

ぴたり、とナイトスピリットの動きが止まる。
だがすぐに飄々とした態度に戻った。

彼は言うだけ言って立ち去ってしまった。
苦笑するグレンダと、わけのわかっていない顔のデイジーに、ガーベラが話す。

砂地を目指す君に声がかけられる。
誰かと思えば、そこにいたのはアムルイだった。

ということは、彼女も砂地に向かうのだろう。
思えば付き合いも長くなってきたが、今まで組んだことはない。
機会があれば、肩を並べて戦ってみるのも悪くないだろう。

不意に告げられ、君はアムルイの目を見た。
そこには以前と変わらず、好奇心の輝きがある。
しかし以前のような、無差別に全方位へ向かうものではない。
ああ、これは前を向いている目だ、と君は直感した。

それは今度こそ、君の胸を不意打ちのように貫いた。
王のいない国。
それは共和制や、民主制と呼ばれる在り方だ。
封建制とはやり方が違うだけで、国家を運営する手段の一つではある。

だが——どうしてそれを、アムルイが目指すのだろう。
少なくとも彼女は新王を知ろうとし、理解しようとしていた。
ただ戦うだけではなく、どうしてこうなったかを、考える姿勢の持ち主だった。
王を廃するという彼女の言葉は、今までと矛盾するようなものだ。
だから君は問う。どうしてそう思ったのかを。
異世界とはいえ、王家に連なる者として。

それは確かにそうかもしれない。
一揆の参加者の全てが、正義感だけで動いているわけではない。
中には自らが新たな王になるべく、野望に燃えている者もいるだろう。
それは参加者だけではなく、それを支援する者の中にさえ、だ。

話が経済にまで及び、失礼かもしれないが君は意外に思ってしまった。
だが振り返ってみれば、アムルイは知識が足りないだけで、愚かではない。
彼女なりに社会と触れ、問いかけ、考えた成果なのだろう。

だから王を廃し、新しい国の形を望む。
その理屈ならば分からないでもない。
理解はできるが、君は背筋が冷えるのを感じていた。

アムルイが目指すものは、より多くが幸せになるための道だ。
この争いを、本当の意味で終わらせようとしている。
今回はその最初の障害として、王というものがある。
だが争いがなくとも、いつか王を不要だと考える時が訪れるのではないだろうか。
民だけで国家が成立するのなら、確かに王は必要ないのだ。
アムルイの言葉の根底には、そんな意思があるように思う。

王侯貴族は民を守る義務がある。
それは王侯貴族が、民に生かされているからだ。
求められているから、支配を受け入れてくれているに過ぎない。
民は必要とあらば、王侯貴族を廃する権利を持つのだ。

ここにいるのは、ただのアムルイという少女ではない。
自分達のために、それが正義と信じて国を変えようとする、民の代弁者だ。
民ではない君にすれば、最も大きな脅威だ。

肩を並べて戦おうという誘い。
しかしそれは、容易に頷けるものではなかった。

キラーウルフの放つ威嚇に対し前に出て遅いかかろうとした少女白雪を守ろうとする意思を見せるフラウのツララ。
グレンダの名乗りを聞き、目の前の少女は

早合点でした、と前に出たフラウを下げ、少女は頭を垂れる。

おそらく同じ組織に属しているのでしょうね？
そう、柔和な笑みを浮かべた白雪と名乗った少女は自らの身上をグレンダに告げた。

あなたは異世界の人なんでしょうか？
目の前の少女、白雪は微笑みそう問いかける。

グレンダに向かって男が話しかける
以前何度かあったことがある農民の男だ。

そう言って男は仲間の所に戻る。