戦闘準備を終えたファイは、敵から決して目を離さない。
憂えを拭い去り、自分なりの答えを見つけた少年は、今まさに最高のコンディションと言える。
そんな彼を倒せる敵は、この中にはいないだろう。
私はそれを内側で観察しながら、疑問を覚えていた。




戦闘特化型である人工生命体が、なぜこのような成長をしているのだろうか。



今回はようせいが適切な助言をしたおかげで解決した。
だが、いつまでも彼女がファイの傍にいる保証はない。
ようせいがいなくなった後にまた似たようなことが起きれば、今度こそファイは戦わなくなってしまう。
そしてこのままでは、いずれそうなるだろう。

あと、たたかうよりも、きれいなもの、みたり、
さわってる、ほうが、すきかも、って、おもった。


今日の出来事が起きるきっかけ。
昨日ファイが書いた日記の一部分。
戦いよりも興味を持った。つまり、戦闘第一ではなくなったということでもある。
これだけでも十分驚愕に値する。
だが何よりの驚きは、自分の好みを把握したという点だ。
好きなものを判別できるようになるということは、心——自我が発達した証なのだから。

人工生命体としての最低限を作り上げるだけで一苦労していた国の魔術師たち。
そんな彼らが奇跡的に創造したものが、心までも有する。
確率的には起きる方が、

なぜ奇跡的な成功例のファイを、自分たちの目が届かない異世界に送り込んだのか。
まずその前提からして、どこか引っ掛かるところがある。
メルンテーゼからの要請を受けて作り上げたものだから？
しかしそうだとしても、素直に従う必要はなさそうに思える。
この世界とあの国の関係性は薄い。
断ったとしても、あの国には何ら支障はない。

そもそも前提の認識すら間違えていたのだ。
あの国にはメルンテーゼの要望を受ける必要すらない。
なら、そもそもファイを目的すら不明となる。

一つの矛盾から、ありとあらゆる出来事が結びつかなくなっていく。
ファイが心のようなものを持っている理由。
そしてそれを持てる程に出来栄えのいい人工生命体を、メルンテーゼに送り込む意味。
ファイを作り出した目的。

なぜ彼らは不可解な、自分たちの利益にならない行動ばかりしているのだろう。
わからない、私の持っている情報が少なすぎる。
記憶をあさろうと試みても、何故かそれ以上のことを思い出せない。
もしかしたら、母に封印の術式を施されているのかもしれない。

ならば、やめよう。
私は母に従い、ファイの監視をするためにここにいる。
それだけでいい。

正しいと思わなければならない。
なのに、それなのに、私は。







なぜ、何を犠牲にしても知りたい、なんて思っているのだろう。

　言葉を選びながら、慎重に続ける。

と言いながら、近寄ってきた頭をなでなでなでとした。

なでなでを止めることなく彼女はこたえる

じーっと顔を見つめて言う。

一旦言葉を切って、ゆっくりと続ける。

もう大丈夫だろうと頭を撫でる手を止めて頬に添えます。

そう言って貴方の頬をふんわりと包むように抑えます。

そういってくすっと微笑みます。

答えを得た。
けれどそれは、きっと始まりでしかなくて。

答えをくれぬものに、挑むために。
答えなんてないものに、抗うために。