■A merry companion is a wagon in the way...


冬時期の早朝の空気というものは、何処か独特の雰囲気を帯びている。

次の攻城戦予定の地点へとレシュやアークと連れ立って歩く。
城の裏手を覆うように聳え立つ大きな大きな山の険しい山道。
今回目指しているのは、その先にあるという古びた小さな屋敷だった。

随分と高い場所まで登ってきた所為か、周囲も靄のような霧のようなものがうっすらと立ち込めている。
そしてシェリィの吐く息も、ひやりとするその冷たさで自然白くなり、空気は段々と湿り気を帯びて……。


「……？　ちょっとそれにしちゃ、この辺りだけこう、異常に湿度高すぎっていうか……もうこの辺りは頂上近いはずだよな？　大分周囲の樹木も減ってきてるのに、どう考えてもこれじゃ水辺並み……って……あ」


周囲に濃密に満ちる水属性の気配。
さすがに神経を尖らせる事は無くなったが、それには心当たりがあった。


少々人並みよりは利く目で周囲を見やれば、その濃密な水属性の発生源と思しき者が視界に入った。
既に面識がある相手故にこの状態にも得心がいき、すたすたとそちらへ向かって歩を進める。


険しい山道の途中、休憩するには良さそうなちょっとした平地。
朽ちた木々の一つに寄りかかって地面に座り込みつつ、長剣を鞘ごと抱え何やら考え事をしている様子の少年も、一定距離で此方に気付いたらしい。

深いグリーンの翡翠色の、相変わらず少々不安定に揺らぐ瞳が此方へと向けられた。
遠目からも周囲の様子からも予想していた通りの相手に向かって、初見の折と同じくひらひらと軽く片手を振って。


「やぁ。また会ったな。ジェイド……だったよね。この辺りがこーゆー事になってるってのは、毎度の水属性技の鍛錬かい？　早朝からなかなか感心な事だね」

「あ……お姉さんはシェリィさん、でしたよね……えと、おはようございます」


少年が律儀に慌てて頭を下げて挨拶をする様子に、時間帯が早朝だったのに改めて気付く。
小さく笑いながら、それに同じ挨拶を返して。


少年がぼんやりと視線を送る先に、自身も視線を送る。
早朝の気配に、霞がかって山頂は見えない。
この先の地点の敵はなかなか手強く、侮れない。


「そういやこの前も合成の仕事頼んだもんな。アンタも此処に居るって事は、今回はどっか別地点へ向かう所かい？　それとも、今からあの噂の屋敷とやらへ入って攻略すんの？」

「え、あ、はい、そうですね、今回は、これからその、噂の屋敷とやらを様子見してみようと思ったのですが……どうも、その……１人で行くには情報も不足していますし、それでまずは事前に技の練習をしていたのですが……ちょっと、うまくいかないやらで……まだ、迷っていて……」


……何となくこの少年のどこかおどおどとしていて、喋る折も言葉を選ぶようにして区切りながら話す癖のようなものも、気付きつつはあったのだが。

自身の見立てでは、そんなに逃げ腰になる必要がない程度の力量は備えている様子なのに、この自信の無さのようなものが何処から来るのか。
一体何が原因なのか。


以前なら、あまり深入りしない、関わらない……と思っていた、いや意識して心がけていたはずだった。
が、ここ暫くの心境の変化もあってだろうか。
気付けば考えるよりも先に、自然と少し屈んで握りやすいようにして、座り込んでいる少年に向けて右手を差し出していた。


「私もこれからあの場所へ行くつもりなんだ。あそこの敵連中は結構手強いしさ、私が使うのは基本火技だから、アンタが一緒なら何かと助かりそうだ。前に言ったように私もアンタと同じ“一人ぼっち”仲間だし、この前言ったろ？　“今度どっかで見かけたら、首根っこつかんででも引っ張っていってやる”ってね。首根っこつかまれる前に、私の手を掴んでおく方がいいと思わないかい？」


差し出された手を暫く見つめた後で、こちらを見上げる少年の翡翠の瞳には驚きと困惑が見て取れた。


「え。でも、その、ボクなんかが、一緒では、ご、ご迷惑では……」

「迷惑だったら最初からこんな申し出してないって。実際に剣を交えるチャンスは未だ無いけど、共闘してみりゃ見えるモンもあるっつーか、これも言ったがどう考えてもアンタの場合、そっちのが手っ取り早い。ついでにアンタに聞かれた質問にも、もうちょいちゃんと答えてやれるかもしれないし、こーゆー場所で会ったのも縁だろ」


で、どうする？　と問いかける己の左右色違いの瞳を、少年は暫く迷うように見つめ返してから。
おずおずと、それでも少年は差し出した手を握り返して、大切そうに長剣を鞘ごと抱えたまま、立ち上がった。


「はい、では、一緒に……行かせて下さい。ご迷惑をお掛けしないように、精一杯、頑張ります、から、その……宜しくお願い、します」


そんな少年の、やはりまだぎこちない口調に、握った手を一度強く握り返してから、目一杯その背筋を叩く。


「私の見立てじゃ、アンタ結構出来るんだから、もっとしゃんとしなって。こっちの腕はまぁ実際に見てないんだから信頼しろってのが無理だろうが、戦闘経験だけは多分アンタより上なんだからさ、その私の目を疑うつもりかい？」

「え、え、そ、そんなつもりでは……」

「それなら何も問題なし、っと。何処まで一緒に進むかは、道中でおいおい相談しよう。ついでにこの先の地点の情報交換もね。あぁあと私はそれこそ“一人ぼっち仲間”と、呑み仲間も同じ場所へ声かけてみたから来てるかもしれない。揃ったら結構賑やかな共闘になりそうだな。じゃ、行こうか、水使いの合成士さん？」


にっと笑って見せれば、つられたように少し微笑みを滲ませる少年と共に。
またこうして偶然の末での新しい形での共闘が、一つ幕を開けるのだった——。


■今回の日記では ジェイド＝サザンクロス（1718）さんをお借りしました。

（凄く楽しそうです←…。）

後日。待ち合わせた市場にて。
荷物持ちへの問いかけには、意気よく頷き、腕を鳴らせた。

メイは何かを言いたそうにしていたが。
案山子は気にせず話を続けて。

肩に移動したメイを見る。が、今度は何も言わないようで。

右手の指で帽子をつまんで、少し動かしてみる。

思案顔のシェリィの様子をみて、龍は少しおどけてみせた。

人間の真似事、といった言葉については、意図を汲みかねたのか龍は首を傾げただけだった。

龍は、シェリィの手を取ると、ゆっくりと街の正門へと向かっていった。
龍の身長の関係上、龍のほうは少し早足だったが。

途中、龍は立ち止まり、シェリィのほうに振り返った。

そういうと、龍はどこから出したのか、毛をむしって肉となった１０羽ぶん程度の鳥を見せた。

そんな事言っても成功率は限りなく０に近いのを知ってるだけに平気で言えるだけである。

(金網にのったゲソを口に運び、酒をグビリ)

｛最近、どうも戦闘の感覚がずれててヘタすると負ける可能性もありますが…｝

（桜色をした岩塩が入った小壷をそっと酒瓶の隣に置く）

（綺麗な所作で腰に下げた鞘から長剣を抜き放ち、片手で構えを取る）

　ジャックは本を閉じた。