どうしようもない行き詰まりの空気を、私は覚えます。
これは決して、私個人の……内面の問題ではありません。
律法騎士団としての戦いとして、集団としての問題です。
多くの敵を排斥し、私達は、決して弱くはない。決して弱くはない。

けれど、それでも、至れない。不十分で、不自由で。
何かに絡め取られているような感覚が、空気を支配していました。

打開しなければいけない。
多くのことを知り、求め、強くならないといけない。
私は、自分自身がどうなりたいのか、どうありたいのか。
今となっては、それが不明瞭であるような気がします。

けれど、ただ一つある願望として、確かにそれは一つある思いとして。
私は、アトラさんの意志を完遂させたい。その志が、何を成すのかは、私にはわかりません。
それでも、いけるところまでいきたい。

私は、人間じゃないかもしれない。化け物なのかもしれない。
記憶は失せて、夜、血を求めてさまよい歩いて。身にエンブリオを宿して……。

でも、何より私は、律法騎士団の一員なのですから。

優しくフィリーの頭を撫でる。

ガキン！とあっさり刃を斧の柄で受け止められた瞬間、トガノは口元を緩めた。
それは怒りでも悔しさでもなく…ただ純粋に、楽しんでいるように見える。
そして、その状態を維持したまま放たれた言葉は妙に冷静さを取り戻していた。

『お前等』。過去にもそのような相手と対峙したことがあったのだろうか。
更なる言葉を挟む前に…ナイフを数本、相手に向かって投げ付ける。
距離を取った相手に対し「逃がさない」と言わんばかりに。

カツンと靴音を鳴らしたかと思うと、一気に跳躍し。
相手の服の弛んだ部分を掴み、力任せに引き寄せる。
そのまま流れるような動作で斧に当たらぬようにナイフを下から上へと思い切り振り上げた。
軽度か重度か。程度は分からないが、幾らかの血飛沫が宙を舞う。

側面からナイフを相手に突き立てる。
ずぶりと鈍い感覚が互いに伝わったことだろう。
言葉通り…そこに躊躇の意思は一切見られない。

目をそらしてしたときは違い、まっすぐフィリーさんのほうを見るのであった。