エンブリオ。

全く別の魔法体系だが、これは実に面白い。聖女として散々叩き込まれてきた私からしたら、どうしようもない出来損ないにしか見えない、あのイニシエーションでさえ、なかなかバカにならない魔法になるのだから。

精神制御系の魔法というのはただでさえ難度が高いのだが、術式の微細なコントロールは全てエンブリオ任せでも大丈夫なようだ。ユングフラウ<穢れなき威光>はあの女に効果を及ぼしている。後は強すぎる炎の因子を擽って、心を炙って、焦燥で駆り立てればいいだけのこと。

とはいえ、「私達」は慎重だ。シプソフィラが私達の手元にないのは痛い。おそらくはあのエンブリオ、ドールが何処かに隠しているのだろうが。ドール。いい響きだ。人形遣いはお手の物、何せ私達は、人形として散々使い潰されてきたのだからね。
それでも、邪魔をし続けるようなら、必要ない。契約解除。ネクターの供給停止……それでいい。不確定要素のすべてを潰して、バルシェ＝メルバーナを攻略する。
それで終わりだ。私達は真の自由を手に入れる。
何者にも、邪魔はさせない。

すんなりと一言で返答するや否や続ける。