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　　　　　　【過去。回想。水辺にて】
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「やあ、こんな所で何をしているんだい？」
「星を見ているんです」

　小川を綺羅びやかに照らす、満天の星空。
　それを見ると男は得心したように頷き、岸辺に腰掛けた。

「貴方こそ、こんな所で何を？」
「少し調査を」
　言葉少なげにそう答えた男。どうやら、何か事情があるらしかった。それはこちらとしても同じであるので、深くは詮索しない。

「ここ、良い場所ですね」
「そうですね」
　男は流れる川を見つめ、我が身は水面を揺蕩う。

　ぴしゃりと、男が云い放つ。
「まるで、太陽から嫌われているような場所だ」
　
　私は青く昏く深い、星に喰われてしまったかのような空を眺める。

「貴方の、云う通りだ」

　そう同調するのを聞くと、男は自嘲するように笑った。きっと私も、同じ顔をしていた事だろう。


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　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【現代。畏怖と追憶】
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　僕は息を一つ吐くと、敵の返り血を浴びた手を布巾で拭った。
「凄かったな、あの人……」
　思わず漏れ出る、驚嘆の言葉。思い起こされるのはあの騎士——フーキ・イートンの八面六臂の活躍だった。
　　　　　　　　　　　　　　　　 ひとたび
　移動は迅速で無駄がなく、一度剣を握れば暴風のように敵を屠る。フーキのそれはある種芸術的なまでの戦闘——否、殲滅だった。

「お前やネロと、似た攻撃も使っていたな」
　そう言った王——風斬東だった。確かにフーキの鮮烈な太刀筋には、僕が使っているのと似通った技も含まれていた。
「いえ。似た技など、使ってはいませんよ」
　似て非なる物——そんな形容を行う事すら躊躇われる。それが僕達を案内してくれた、フーキ・イートンという人物の戦いだった。

　この世界には、強い人が沢山いる。僕よりも強い人が、沢山いる。
　僕は今度、同行者の女性——美浜花音と組んで戦う事になったらしい。
　彼女もまた実力者の一人であり、同時に僕と同じ、記憶喪失の人物でもある。何か手がかりでも、得られればいいのだが。

「くははっ」
　僕の不安など一息に吹き飛ばすかのような、心底愉快そうな様子で嗤う東。
　恐らくは、フーキ・イートンの戦いぶりを思い出していたのだろう。

　この男は、あの強烈にして激烈な騎士を相手にしてさえも——戦い、勝利した時の事を考えている。
　そう思うと、ぞくりと背筋が震えた。


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　　　　　　　　　【過去。宵の明星と命ぜられしその子ら】
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　　　　　サタン
　私は、悪魔です。
　これは比喩や卑下ではなく、そのままの意味で悪魔なのです。

「観視だ。」

「はい」
　私は悪魔。知恵の実を操り、失楽園を起こした原初の蛇——に、創り出されし存在。

「物語から外れた存在を！」
　~~~~
　我々を創りしルシファーは、監視を命じた。我々は悪魔だが、役目を果たす為の部品だ。
　物語を乱す存在を、監視せねばならない。

「水辺だ！　水辺に行け。」

「いずれ、生まれる。」

　私はそうして、水辺で星を眺めるのが習慣になった。


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　　　　　　　　　　　　【回想。水辺。悪魔と男】
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「やあ、こんばんは」
　今夜も水は流れ、星は煌めいていた。男は私に挨拶を交わすと、慣れた様子で傍の岸辺に腰掛けた。
「相変わらず調査ですか」
　私がそう問いかけると、男は「まだ暫くは、この景色からは抜け出せそうにないです」と、柔和に笑って答えた。

　——ぴちゃん。
　魚が跳ね、飛沫が上がる。全身を浮かべる澄んだ川は心地良く、自分が醜悪な蛇である事を忘れさせてくれるようだった。

「そういえば」
　私は思い出したように云う。
「名前を聞いていませんでした。貴方の」
「ああ、そういえばそうだ」
　私と彼がこの水辺で時を刻むようになったのは、昨日今日の話ではない。もう一ヶ月程、毎日と欠かさずに顔を合わせていた。

「聞いてもいいですか？」
　話の流れを考えれば、それは不自然な事ではなかった。むしろ、今の今まで聞いていなかった事の方が不自然。だのに——。

「——意外な事を、聞くんですね」
「自分でも驚いています」
　男はそう云ったし、私もそう返答した。

　私には私の生き方があり、彼には彼の生き方がある。名前を聞くということは、干渉するという事。
　悪魔が人間に干渉して、良い事など有る筈がない。それは分かっていたのだが、不思議と彼の事が気にかかった。

「ノエル」
　男は短く、消え入りそうな声で呟いた。
「ダンテック・ノエル。それが僕の名前です」
　紺色の長着に、青竹色の帽子。
　純和風といった格好をしている男だったが、どうやら出身は別の地らしい。よくよく見ると、その肌は人形のように白かった。

「そう、ノエル。それが貴方の」
「はい」
　ノエルは、名前を問うた私に対し、何も聞いて来なかった。
　それが何だか心地よくて、やっぱり私の問いかけは間違いであったのかも、と思われた。


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　　　　　　　　　　　　　　　【現代より少し前。】
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　ノエルは最後まで、私の名前を聞く事は無かった。
　　ル　シ　フ　ァ　ー
　我々を創りし主によると、どうやら彼は、殺されたらしい。

　誰が、彼を、殺したのだろう？

鎧を着込んだまま腕を組み、ちょっと考えこむと「そうか！」と声を出した。

折角の機会だし、逃げてしまったあの時の自分とは違うところを見せたいと思った。

正直怖いです。

できることなら頭を打つ系はやめてほしいなぁ〜……なんて思いつつ私はここで会話を終わらせることにした